日本と主に先進国海外の学歴まわりのゲームルールの違いについての話
今回は題名の話について記載しようと思う。
○この話題を取り上げる背景
学歴周りの話と言うのは、年収、男女関係、奢り奢られ等の話題と並んで出てくるツイッター談義でよく出てくる話題の一つである。
学歴の話題は個人的には年収や男女関係、奢り奢られ等の話題と並んでどうでも良い話題であると感じている一方で、ツイッターでの議論を見ているといまだに「日本凄い」「日本でそれなりの大学を出ていれば海外でもそれなりの扱いをしてくれて仮に海外で仕事したい等の際もそれなりの仕事に就けるはずだ」的に考えているように見える人が多いようにも見受けられる。これは実際に海外で住んでいる実感とは大きく異なる面があり、個人的には「日本人の内向き感、相対的客観的に自身の立ち位置を把握できていない状況」として気になる面があるのもまた確かである。
例えば将来的に海外で活躍したいと考えている日本人がいる時に、誤った理解を元に誤った進路を選択してしまい後悔する、と言った事にもなりかねない。
加えて、自身も実際に「相対的客観的に自身の立ち位置を把握できておらず」「結果として海外に出てみて相当に辛酸なめこ汁飲まされている」と言う面もある。なめこ汁は日本人として好きであるが辛酸を舐め続けるのは正直そんなに楽しい事ではない。こう言う残念な事象をこれ以上増やしたくないと言う思いもある。学歴周りのゲームルールについての日本と主に先進国海外の、自身がシンガポールに在住する中で感じた違いを述べておく事には一定の役割があるかも知れないと感じている。
このような問題意識や思いのもとで、学歴の話題はツイッターで何度か言及したように思う(正直時間の無駄をしたなと感じる所もある)。そうした背景から、多少時間を使ってもこの場で自身の認識をまとめてメモしておこうかなと感じた次第である。
日本の大学や学歴に対してかなり辛口な内容になるので、そうしたものを見たくない、見る必要がないと言う方はこの先は見ないようにして頂けると幸いである。
また、今回の話のスコープは主に「西側先進国海外と日本の学歴周りのゲームルールの差、西側先進国海外で将来的に活躍したいと考える際のガイド」的なものであり、例えば途上国、アフリカ等で働きたいと考える際にはあまり該当しないであろう事、途上国での進路に興味がある方は実際にそうした事をされている日本人に当たられる方が多分良いであろう事も付記しておきたい。加えて、日本国内で仕事する予定だ、先進国海外で働く事はあまり考えていないと言う場合もあまり得る事がないと思うのでその点最初に想定する読者範囲を規定しておきたい。
○東大卒の学歴は海外で通用するのか、海外でもすごいのか?
まずはツイッターで頻繁に登場するこの話題について、自身の回答を述べておきたい。結論から言うと日本のフラッグシップであり日本の学歴ヒエラルキーの頂点に立つ東大でさえも日本の大学に国際的な知名度はないし、アジア内でもそう刺さる学歴ではない。
国際的な大学の知名度、ブランドを測る際にはQSとTHEの大学ランキング辺りが頻繁に参照される。この点には功罪がある、一定のバイアスがあるのは確かであり、QSだけ、THEだけを参照するとやや違和感があると思う場合もある。しかしこれらランキングの平均を取った位であると大体海外の労働市場やアカデミック界隈での評価実感、ブランド感、海外で労働ビザを得る際の得易さ等と一致するようにシンガポールで在住し労働市場等を見ている中で感じている。
QSとTHEで東大がどのあたりの位置にあるかと言うと、QS/THEのランキング間、年、専攻等により異なるが、大体は世界ランキングで20位過ぎから45位くらいの間をウロウロしてる感じ、アジアでは大体5-10位内外位に位置付けているのがここ何年かの通例である。
米欧亜で各々ランキングの近い大学を列挙すると、ランキングや専攻分野にもよるが、東大の類似位置の大学はトロント大、ジョンズホプキンス大、キングスカレッジロンドン、香港大学等が挙げられる。アジア内ではシンガポール国立大、清華大学、北京大よりはランキングが下回る事が昨今は多く、ランキングや年によりシンガポールのナンヤンテック、香港大学他よりも下の場合も比較的ある。
こうした比較対象を見た時、皆さんどの程度これらの大学をご存知だろうか。また生徒の能力レベルの見当等付くだろうか。うわあエリート、と思われるだろうか?どの大学も現地では良い大学なのであるが、正直実感が沸かないかたも多いだろう。海外から見た東大と言うのはその位の立ち位置だと言う事である。
自身がシンガポールで住んでいる実感としては上記のランキングは素肌感とも合う印象を持っている。シンガポールの労働ビザ審査では東大、京大、東工大はTier1の学歴扱いをして貰えている(それ以外はTier2以下)。しかしながら東大卒の人であればシンガポールで容易に仕事が得られるかと言うと、履歴書的にも、分野にもよるが東大理系修士位で海外の文脈ではやっと「面接位には呼んで貰えるかも、労働ビザが学歴が低すぎる事が理由で通らない事はない」位のB-Cランク大位の位置付け、インテリ/トップ校を出ている人という扱いはして貰えないであろうと思う(注:自身はグローバルEラン卒で東大卒ではないので、周囲を見ている実感)。
労働市場で東大卒だから有利な位置に立てると言う事はなく、それなりの立場はやはり欧米一流校修士/MBA卒等が持っていく事が多いように見受けられる。英語力がノンネイティブであると特に、東大卒でも日系企業や外資ジャパンデスク以外での採用は中々ないだろうなと言うのが実感である。
因みに東大卒でもこうした状況であるため、日本の大学の東大以外は尚更こうした色が濃くなる(ここは自身が該当しているため非常に実感がある)。
○外資系金融東京オフィス等で東大卒が雇われているではないか?外人も東大すごいと言ってくれる人もいるよ?
こうした話をすると想定される反応は、「しかし外資系金融東京オフィスでは東大で十分だし外資でも通じるのではないか?」と言う疑問を頂くと言う事である。
この点も残念ながら幻想である。ツイッター内で「三菱商事インドオフィスの現地採用でデリー大学の人を採るのと同じ、デリー大学出身者が例えば三菱商事本体で事業本部長や役員レベルになる事はない」と言った例えが出ていたが、これは良い例えだと思う。つまり東大はローカルトップ大学ではあるし、デリー大学よりは海外の文脈でもベターな扱いではあるにせよ、海外では履歴書面で差別化が効く大学ではないのである。あくまで東京ローカル採用で日本語や日本のビジネス慣習を理解していて日本で働いて貰う際に東大卒が対象になる、と言う事であり日本を出て働きたいとなると話は別である。
外人が東大凄いですね等と言う際は「日本では東大がこの国のフラッグシップ大学である」と言う事を何らかの形で理解しており、お世辞/お愛想でそう言ってくれているか、又は日本でビジネスやる範囲、ローカル現地社員としては頼りになるのでそのように言ってくれている、と言う場合が多いように思う。
例えば我々がタイ駐在になった場合を想定してみよう。チュラロンコン大(タイのフラッグシップ的大学と記憶)、タマサート大(タイの早慶的な位置付けと記憶)卒のタイ人はタイ現地でビジネスやる際には概して優秀だし頼りになるなと思う事になるであろう。結果として、「チュラロンコン大ですか、それは凄いですね」と言うのと似たような話である。しかし東大もチュラロンコン大も(東大の方がランキングはチュラロンコン大より上なので海外の評価は東大の方がベターではあるものの)ローカルトップ校であり、残念ながら国際的にトップ校として通用するブランドではないのである。
因みに自身が海外で遭遇したのは、「タマサート大卒でタイ人内では英語もぼちぼち話せて外資系バンコクオフィスでは採用される、タイの企業でも英語が出来て海外顧客対応等も出来ると言う評価のタイ人、タイを出たらそれなりに優秀だとも思って貰えないし面接にも呼ばれず苦労する」の図の、日本人版である。自分で書いていて「ほんとこれだよな」感全開である。
タイ人はタイ関連、日本人は日本関連のビジネスであればローカルトップ校卒で十二分だが、「英語が話せる非英語圏の現地上位校卒の現地人」は現地と言うドメイン知識との関連においてのみ外資企業や海外でも通用すると言う話なのである。そこから離れたいとなれば国際的に通用する学歴を得る必要がある場合が多いと思う。
そうしたタイ人が海外で生活するにはどうするかと言うと、タイ料理屋で働くとかタイの財閥とかの現地法人等で働く以外ない訳である。東大卒ならタマサート大卒よりは多少待遇が良いと思うがまあ大体そんな感じ、東大未満早慶以上位だと正にタマサート大の例えが名実共に該当するみたいな感じで理解頂いて差し支えないと思う。この辺は日本国内の労働市場にしか晒された事がないと中々実感沸かない、そんな厳しいの?と思われるかも知れないだろうが、自身の実感的には大体先の通りである。
○特に昔は東大卒や早慶卒の日本人がグローバル外資系企業のボーディングメンバーに入ったりしていたではないか?
次にツイッターでも複数回頂いた反応がこれである。特に昔は東大卒や早慶卒の日本人がグローバル外資系企業のボーディングメンバーに入ったりしていたではないかと。これも残念ながら現在では再現性は低いものになっている。
これは当時は日本の国際的なプレゼンスが今よりもずっと高かった、国際企業における日本の収益比率が高かった、アジア本社は東京一択だった、と言った背景がある。
一方で今はアジア本社は香港かシンガポールであり東京はそれのさらに支店の「営業所」的な位置付けの外資系企業が多いものと思料する。営業所の現地社員がアジア全域やグローバル関係の立場や仕事を得られる可能性は非常に低いものと思料され、現在以降で再現可能性は大幅に落ちているのである。これを切実に自覚していない日本人は比較的多いように思うが、外から見るとこれが現実であり、この辺の認識の違いは「埋められない溝」かも知れないなと感じている。
○修士や博士なんて無駄ではないか?叩き上げで実力で結果を出していけば海外でも出世出来るでしょう?
次に頻繁に出てくる話がこの、「日本と先進国海外の修士や博士の位置付けの違い」である。学位については日本では修士や博士が必要になる局面はそう多くないと思う。
しかしシンガポールに住んでいる実感として、先進国海外では兵卒と幹部候補は明確に分けられており、幹部候補以上、上級専門職になると修士/MBA必須、Phdが好ましいと言った仕事も多い。学部卒ではそもそも機会も与えられない事も多い。学部卒で叩き上げで偉くなる人も海外でも勿論ゼロではないが、英語ネイティブで、かつ欧米で名の通った大学のキレキレの学部卒である場合などが多い。この学位に関する事情は日本国内とその外では大きく異なるので、留意が必要かと思う。
因みに、自身がNUSで修士を取りたいと切実に感じるようになったのもこの辺の事情もある。英米トップ校のブランドには及ばないが理系分野は特にランキングを急激に上げており、アジアでは通りの良い大学で、運の良い事に非CS出身者が効果的にCS修士転向するプログラムを開始した。中々レアなチャンスだと。特に「ランキングが一定以上で、文系出身者も効果的にCS修士転向するプログラムを英語で提供」、有り体に言えば学部から入り直さなくても理転出来て英語とITを一気に鍛えられる機会と言うのは多分世界的にも比較的珍しく、それが自分が今住んでいる所で開始されるのは自身的に目に留まったのである。
○それでも海外に憧れてしまう人はどうすれば良いのか?
日本の大学が海外の文脈であまり評価されていない点ばかりを強調してしまったが、「じゃあどうすれば良いのか?」と言う内容がないと建設的ではないと思うので、最後にこの点を述べて締めたいと思う。要は各人のゴールがどこにあるか次第だと思う。
*日本国内でやって行く場合。
日本国内でやって行くと言う事であれば外資/日系どちらにせよ東大は素晴らしいし早慶以上学卒位あれば後は実績次第だろう。
後は若い人の場合は、日本在住/勤務を継続する際も学歴要件がどうなるかについての考え方を持っておく事は必要かも知れない。自身個人的な見立てでは、国際的な企業の幹部候補等は日系企業でも海外大/院卒メインになる可能性はある、外資東京法人も日本の大卒は東大位で後は海外大卒の日本語話者中心に採用、等となる可能性はあると考えている。しかしこれは個人的なSpeculationに過ぎない。投資/進路は自己責任で。
*海外生活を数年やってみたい位の場合。
海外生活を数年やってみたい位がゴールの場合も案外日本の大学出て日系駐在か外資ジャパンデスク現地採用辺りが多くの人には最適解だと思う。
ただし、中長期的には日系駐在枠も減少傾向と思われる面もある。日本企業の国際的なプレゼンスが落ちていると言うのが一つと、海外オフィスを持つ日系企業も現地化を推進しており駐在の席も減少傾向と思われる事もある。
「日本の立ち位置の厳しさ」と言うのは例えば、徐々に外資系ジャパンデスクの席数がシンガポールでも減っているな、日系企業の現地でのプレゼンスはマイナーなもので上がることはないな、自身の過去の学歴職歴では席数の減り行くこれら仕事を求める位しか選択肢が無いであろう事を痛感した等、そう言う肌感から感じる。その他にも日本への注目は鮨、Sake、観光、たまにマニアックな人でアニメ以外そう無いなと感じる局面が比較的多い等もある。
これも将来どうなるかは各自の判断、自己責任と言う事にはなるが、若い人は一定のビューを持っていた方が良いと思うし、子供を持つ親等も一定のビューを持った上で教育方針を考えて行くと言う事にはなろうかと思う。
*本格的に海外中心の生活がしたい場合、日本とは関係ないビジネスでそれがしたい場合。
本格的に海外中心の生活がしたい、日本と関係ないビジネスでそれがしたいと言う場合は、海外大学や院等は有力な選択肢になるだろう。海外志向の人で、かつ最も現実的な選択肢である日本企業駐在やジャパンデスクではないピュアに海外な仕事したい人は、各自の配牌で主には欧米トップ校、次善の選択肢は移住したい先の上位校の学歴と言う武器防具を装備すると言うのは有力な選択肢だと思う。
例えばオーストラリアに移住したいと言う事であれば、世界ランキングは東大より格下(注:とは言っても早慶よりはだいぶ上、京大位の位置付けだったりする)の現地の上位校で語学ハンデを小さく出来る専門職系の学位を得る等すれば、東大が最終学歴より現地でビザや就職等し易くなるだろうと言うのはあると思う。
また、日本人が海外で仕事する際には鮨職人、日本酒関連の仕事等は攻めやすいと思う。英語もネイティブみたいに話せる必要はない。純粋に海外移住が狙いならむしろ鮨や日本酒の専門家になる方が狙い目だと言うのはあるように思う。これはタイ人であれば金融マンよりタイ料理で海外で仕事する方が進出し易いと言った話にも通じる。凄くメジャーな分野ではないにせよ、大都市には大体応分の日本食やタイ料理のニッチ需要はある。
因みに自身の「理転」と言うのは英語が純ドメノンネイティブな中での模索でもある。文系のままの頃よりはぽつぽつとヘッドハンターや面接の引きも出てきているので改善はしているが、この分野もこの分野で中国人/インド人との競合が非常に激しい所であり一筋縄では行かない事もまた感じている。
*その他のポイント:東大内でも特に上澄みの層は、東大卒「でも」海外で活躍できるかも知れない。
因みに東大理系内上澄み層は、英語が出来るようになれば純粋な数理的能力自体は国際的に通用すると思う。東大の知名度が海外の文脈では然程ではないとは言えどもトロント大/香港大位の位置に付けている事も確かであり、まあ一応面接位するか→超頭いいわ英語も問題ない、を英語で表現出来れば海外でも活躍可能だと思う。数学オリンピック世界大会でメダルとか日本人でもぽつぽついるし、東大に入るのが簡単、と言うレベルの人と言うのは例えば東大理系の上澄み層等にはいるように思われる。そうした人は英語さえきちんと出来るようになれば東大の学歴でも海外で活躍出来ると思う。しかし東大卒「だから」活躍出来るではなく、東大位の学歴「でも」、「その人の個人的な凄さにより」活躍出来ると言う感じだと思う。この層で軽やかに海外で活躍している日本人は時々見かける。但し英語がちゃんと出来るのは必須だと思う。(注:しかし問題は自身の脳味噌については明らかにそんな上澄みではないと言う事であり、全く悩み深いものだなとも感じている。)
こうした才能がある海外志向の人はMITなりオックスブリッジの修士博士等も手が届くと思うし、そうした所に行く方が学歴でビハインドしないで済み実力相応の評価や立場を海外で得易いと思うので、海外志向の上澄み層は上述の進路も是非検討してみると良いと思う。
○おわりに
...以上、細かい話は色々あるが、こうした辺りが「日本と主に先進国海外の学歴まわりのゲームルールの違い」と言った所だろうか。海外志向の日本人の幾らかの参考になれば幸いであるし、各々の配牌でのご武運を祈ります。自身も自分の配牌のもと、自身なりのペースで惑う四十路ライフを継続して参る所存であります。
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