【読了記録】今月読んだ本 ~24年1月編~
こんにちは2024年
ながさき一生『魚ビジネス』
「おさかなコーディネータ」という肩書を持つ著者による、魚ビジネスにまつわる入門書です。御存知の通り日本は島国であるため、水産資源が抱負な国です。そんな魚をより深く味わうための知識が詰まっています。
個人的に目からウロコだったのは、「魚の売り方」のところです。そもそも現代人は魚を食べないと言われていますが、魚ビジネスの形態が変わってきたのと時を同じくして減り始めているそうです。著者曰く少量多品種の売り方が向いている魚はスーパーの精肉のような売り方は向いていないことです。確かに繁盛している魚屋はその道のプロが店頭に立って今日のおすすめを解説していますが、スーパーではあまりしていません。そういった点も魚離れの一因になっているというのも納得できます。
他にも流通、市場、水産加工、培養魚肉など様々な視点で語られていて、これ一冊あれば魚の美味しい食べ方が身につくのは間違いないと思います。読みやすい本だったので、あっという間に読み終わりました。
大宮理『ケミストリー現代史』
いつ読んだかは忘れましたが、『ケミストリー世界史』の続編です。前作ではWW2前くらいで終わっていましたが、本著ではWW2後から20世紀まで駆け抜けています。この時期に発明された化学技術は特に現代社会と密接に関わっている気がします。
戦争が化学技術を発達させるとはよく言われていますが、WW2はその中でも大きな転換点だったなと改めて思いました。当時人間の目で直接観測できないミクロな世界、原子レベルの働きを利用した技術が多く開発されました。その最たる例が原子爆弾ですが…。また半導体や石油化学も開発・発展し大量消費社会が形成されていきました。一方で公害に代表されるような環境破壊も顕在化してきています。SDGsが叫ばれる現在、今までトレードオフであった発展と環境保全がどのように変化するかを注視する必要がありますね。
『〇〇の世界史』系の本にハズレはないと思っていますが、この本もその例に漏れず面白い内容です。著者の博識ぶりもそうですが、筆も軽快でスラスラ読めてしまいます。内容も十分で理系知識が全然ない人でも楽しく読める内容でした。
志村史夫『古代日本の超技術〈新装改訂版〉』
古代で使われた技術を現代科学で紐解くシリーズ、国内版です。例えば勾玉に空いた小さな穴をどう開けたのか、昔の刀剣を再現できない理由とは、等々が紹介されている本です。
「超技術と」いうと語弊がありますが、要は古代の人々が手間を惜しまずに取り組んだ結果、現代では再現困難な事物が出来上がった点が「超技術」なんだと思います。それが偶然や経験則に裏打ちされたものであっても、現代では様々な理由で再現困難になっているため凄い、といったところです。
勾玉に紐1本通すだけの小さい穴を開けるためには舞錐(火起こしで使われるあれ)と研磨剤を基本に時間さえかければ出来ます。ただ、現代でそれをやろうとすると時間がかかりすぎてやってられません。本著にも出てくるたたら製鉄も同じように、採算性が悪すぎて現代ではほとんど行われていません。このように昔はお金や時間を気にする必要がなかったため、最適な加工が行えてたという面もあります。
勿論今の優れた技術では当時より圧倒的短時間で実現可能なものもありますが、やはり古代の人々にはある種の畏怖の念を抱くところがあります。特に木の材質に適材適所があることを経験から知っていた点は観察していないと分からないことですし、今よりも深く自然と密接だった当時ならではだと思います。
志村史夫『古代世界の超技術〈改訂新版〉』
古代で使われた技術を現代科学で紐解くシリーズ、海外版です。表紙にもあるストーンヘンジ、ピラミッド、ローマン・コンクリートなどが紹介されています。
日本が木の文化ならヨーロッパは石の文化で、多くの文化圏で石を使った建築物が存在していました。ストーンヘンジも巨石を遠くの採石場から運んで立てていますが、それをどう建てたのか。ピラミッドはどう建造されたかなどが述べられています。
ピラミッド建造において、著者がインタビューした石工職人の意見が述べられていた点は興味深かったですが、当時存在し得ない技術を用いた建築方法を持論として紹介していた点は少し自分には合いませんでした。考古学の基本はあくまで「当時確実に存在したと言える技術」だけで考えるため、存在しない技術を容易に持ち出すのは個人的によろしくないかなと。勿論異なる見方も必要なので、これはこれでなるほどとは思いました。特に科学者の視点で様々な人に話を聞いているこの行動力には舌を巻くばかりです。
ローマン・コンクリートの優秀さについても組成含め熱く述べられていますが、現代は鉄筋コンクリートにせざるを得ない事情(もっぱら地震のこと)があるため、一概に優劣はつけられないかなと思います。ローマン・コンクリートが次世代のセメントと期待されているものと同様にジオポリマーだったともありますが、結果としてそうだったともとれるかなと。例えば質が良いローマン・コンクリートだけたまたま残っていただけとも考えられます。これも職人の経験則により製法が洗練されていった可能性もありますが、当時の情報が残ってないため真相は謎のままになりそうです。
全体的に辛口にはなってしまいましたが、著者は半導体結晶の専門家であり、あまり突っ込むのも野暮かなと。私も市井人ですし、なんだったら偉そうなことを言える立場ではないです…。概説書として切り口はしっかりしているので一読の価値はあります。
以上4冊でした。それでは。