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【読了記録】今月読んだ本 ~24年9月編~

夏より秋が近いかな


貝塚茂樹『論語 - 現代に生きる中国の知恵』

 やはり一般教養として論語を一回くらい通っときたいという思いもあって通読。論語二十編の中から七編を、原文(漢文)・訓読文("子曰く~"と続くよく耳にする形式)・解釈で解説した本。全て紹介している訳ではないがエッセンスを抽出してまとまった一冊である。

 論語は孔子とその弟子たちの言行を、死後弟子たちが記録したもので儒教の根幹を担っていると言っても過言ではない書物である。私は「子曰く、故きを温(たず)ねて、新しきを知れば、以って師と為るべし」いわゆる「温故知新」のような認知度の高いもの程度なら知っていたが、団欒の場での発言、あるいは又聞きのように孔子の弟子から聞いたものなどかなり幅広い言葉が載っているのは知らなかった。孔子が生きた時代の中国は群雄割拠で荒れに荒れていたこともあり政治的な思想、どういった為政をすべきかについても触れていてイメージとはかなり異なることを知れたのが一番の収穫だと思う。孔子自身も冗談も通じる大らかな人物でもあったのも少し意外だった。

 著者が中国古代史を専攻しているだけあって、従来の学説に「それはありえない」「ここはこう解釈する」などとズバズバと切り込んでいるのが大変良かった。伊達に2000年以上読まれている本なだけあって、各時代に専門家がいるわけだが臆することなく立ち向かっている姿を感じ取れた。

 論語は儒学の祖でもあり、時代に囚われない普遍的な教えを我々に伝えてくれている。内容自体はありきたりと思えるような物も多いが、そういうものこそ案外忘れているものでもある。読むたびに気づきをもたらせてくれるものであり、また論語に関する書籍を読んでいきたいと思う。

水原紫苑『百人一首 うたものがたり』

 万葉集の本を3年前くらいに読んだが全く思い出せないのと、百人一首に関する書籍は読んだことがなかったので今回触れてみた。百人一首は小学校の頃に遊んだことがあったような気がするが、全く記憶にない。それ以外だと「衣干すてふ天の香具山」という下の句があるのを知っていたくらいの浅薄な知識しかないので、しっかり解説のついた本書は非常に良かった。一首首につき見開き2ページで歌人の紹介や解釈、歴史的背景と著者の感想が述べられている。過不足なくといった内容だったが、その分歌人達が込めた思いが端的にまとまっているのでスラスラとよみ進められた。

 知識が無いなりに興味深かった点は①半分近くが恋の歌②撰者である藤原定家の思いが非常に反映されている③基本は各歌人渾身の一首を採っているが例外も多々ある、というところだ。①に関しては当時の娯楽や宮廷文化を鑑みるに予想はつくところだが、それにしても半数は多い。40首くらいが関の山だと思ってた。バリエーションも多く男性が女性になりきって読むシチュもあったというのが凄い。奥が深すぎる。②③は著者の深読み(本書にもそう書いてある)も含まれているが定家の人間関係や美意識、愛憎が採り方に大きく影響している、非常に人間臭いものとも言える。余談だが定家は日記『明月記』が国宝に指定され、そのマメな記録から天文学の史料としても一級品という人物である。そんな人物だからこそ歌のチョイスも少し風変わりになったのかもしれない。

 正直に白状すると小学生の頃、何も知らない状態で「昔は物を思はざりけり」を覚えろ!と言われても全く覚える気になれなかった。ましてや現代小学生の古文知識がない状態だと酷すぎるだろう。下の句が読まれ始めて我先にそのカルタを取ることで精一杯だ。自分も歳を重ねたことで恋心を知るなど精神的に成長したと思うが、年月を重ねるとまた違った見方ができると改めて感じた。今ではお正月のかるたや競技くらいでしか聞かないものであるが、一首一首に込められた思いは千年経ても褪せていない。

 最後に個人的に気に入った一首、82番歌を記したい。

思ひわびさても命はあるものを憂きにたへぬは涙なりけり - 道因法師

<無情な人を思って苦しい恋をしながらも、なお私は生きている。命はあるのに、つらさに堪えず、流れ落ちる涙というやつ>

水原紫苑『百人一首 うたものがたり』p.176

山田五郎『めちゃくちゃわかるよ!印象派』

 私が絵画に興味を持ったのはたまたま山田五郎氏のYoutubeチャンネルを目にしたことがきっかけである。元々は歴史は好きで分厚い歴史の本を拾い読みするのが好きだった。一方で絵画については父がたまに美術館に連れて行ってくれたり、『なんでも鑑定団』や『日曜美術館』など美術に関する番組がリビングで流れていたりと意識はしていなかったが幼い頃から触れていた記憶がある。そんな中、絵画は歴史と密接どころかリンクしていることをこのYoutubeで知ることになり一気にハマってしまったという経緯である。

 本書では印象派について誕生前夜からポスト印象主義までの主要な画家を18人紹介している。印象派の先達ともいえるターナーから儚くも激しいゴッホまで取り上げており印象派の流れを汲むことができる一冊である。印象派が登場した19世紀は写真が発明されたことでリアルに描く必要がなくなり、画家たちが絵画で表現できることを模索し始めていた時代である。そこで印象派の画家たちは筆触(タッチ)を活かして今を生きる人達を描くことを追求していった。印象派はその後ポスト印象主義、特にフォービズムやキュビスムなど20世紀の美術運動にも大きく影響を与えている。

 日本人は印象派が好きでよく展覧会が行われているが、筆触分割による光や空気の表現が改めて日本人好みだと個人的には思う。逆さ富士や木漏れ日のような光の表現、水墨画のような輪郭をぼんやりさせて描かないことによる空気表現などは特に日本人が好きなものだと感じる。印象派が市井の人々や風景が主なテーマであり、日本人にもわかりやすいというのも一因ではあるが感性が合っているのも一つにあると思う。

 書籍としてはフルカラーかつ図版も大きく、とても親切心あふれる一冊である。会話形式で進むため基本はYoutubeのノリと差がない印象。Youtubeでは取り上げていなかった絵画やネタも少々絡んでいるので動画で楽しんでいた人も新たな発見があるのでおすすめしたい。

 
以上3冊。それでは

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