音楽・映画等の違法アップロードについて
私は、現在の音楽や映画等の違法アップロードに対する世の中の態度があまりにも甘すぎると思っています。
今の世の中では、ネットで少し検索すれば星の数ほどの違法アップロード動画や音源がごく簡単にヒットします。もちろんそういった行為は犯罪とされ、実際に摘発・検挙された例も少なからずありますが、ネットに氾濫する違法な動画や音源の量を見れば取り締まりが十分になされているとは正直到底言い難いでしょう。取り締まりをしている側が怠けているなどとは全く思っていませんが、現在の取り締まり体制が正当な権利者の権利保全を実現できているかといえば、首肯することはかなり難しいと言わざるを得ません。
しかし、違法アップロードという行為の深刻さは、それに対する取り締まりの実態と吊り合っているものなのでしょうか。私は全くそうは思いません。
第一に、違法アップロードがどれだけの損失を社会にもたらす行為なのかを客観的かつ具体的に捉える必要があります。
違法アップロードは、正当な権利者がその権利に基づいて得られるべき収益を奪う行為です。すなわち、他人の金を盗む行為と何一つ変わりません。映画や音楽等を勝手にアップロードする行為は、他人の財布を盗んだり、他人の口座から勝手に預金を下ろして着服する行為と同じレベルのものとして社会に裁かれるべきです。権利を侵害された側が作品から生まれる収益で生計を立てている場合、違法アップロードは権利者の生活の手段を奪っていることになります。他人の家の水道や電気を勝手に止めたり他人の家を破壊する行為とさして変わらないと形容しても言い過ぎではないと思います。ただ、違法アップロードによる損害の発生は窃盗等と比べ実感し難く、その損害を身近なものとして捉える機会が少ないため、結果として違法アップロードの深刻さが窃盗等と比べて社会の共通認識として広がりにくいということに繋がっていると考えることができます。
また、違法アップロードは、その行為に及ぶまでの手軽さに比べ、その行為がもたらす経済的な損失の額が信じられないほど大きくなり得る点もしっかり把握する必要があります。
例えばあるアルバムをYouTubeに勝手にアップロードした場合、それだけで熱心なファン等以外では、購入、レンタル、正当なライセンスを受けたサブスクリプションでの配信等、「正当に金を払って合法的に聴く」という手段をそのアルバムを聴くことについて取らなくなる人がきわめて多数出てくることは想像に難くありません。たった1ヶ所にアップロードしただけでです。極論すれば、たった数クリックで、権利者が数千万人・数億人(下手すれば数十億人)から得られるはずだった収益を根こそぎ消し飛ばすことができるのです。著名なアーティストの新譜を違法アップロードしたような場合であれば、その経済的損失(本来であれば権利者に支払われるべきだった収益)の額はごく簡単に数億円〜数十億円単位にのぼるでしょう。
で、これって、行為の深刻さ・悪質さの見地からして、同じ金額の横領事件とかと何が違うんですかね??
これらの違法アップロードという行為の深刻さからすれば、違法アップロードは本来横領や窃盗と同等のものとして社会に受け止められるべきです。その上で現状を見れば、社会が本来あってはならないレベルで違法アップロードに対して甘いと確実に言えるでしょう。数億円単位の横領事件が発覚すれば新聞やテレビで連日報道されることは間違いありませんが、同等の経済的損失を発生させている違法アップロードがそのように報道されて社会的制裁の対象となっているでしょうか。最低限、違法アップロードに対してはおしなべてそれがなければ本来権利者が得られるべきだった収益の賠償請求がなされ、それに加えて刑事罰が下されるのが当たり前なのです(再生数やダウンロード数等から本来権利者が得られるべきだった収益の額を算定することは決して不可能ないしきわめて困難ではないでしょう)。
この他にも、現代社会における知的財産権の体制は、「正当なライセンスを得るまでのフローが可視化され難い」等多数の問題があると考えていますので、追ってそのような体制に対する私見も書いていきたいと思います。