プロローグ やる気のある子どもに育てるたった1つの大切なこと
今年に入って半年も経たない内に、日本で家族について考えさせられる事件が2つ起こった。1つは岐阜県のホームレス殺人、もう1つは兵庫県宝塚市のボウガンによる殺傷事件だ。
ホームレスの殺人について知った時、最初、中学生か高校生の仕業かと思った。驚いたことに、それは大学生のグループだった。彼らは野良の子猫に石を投げて遊び、怪我をさせた。それを目撃したホームレスの男性に注意されたことから、その矛先を彼に向けたのだという。
後者の事件は、大学もやめ、仕事もせずに家にいた23歳の男性が、喧嘩ばかりしていた弟、祖母、別居中の母をボーガンで打ち殺したというものである。
どちらの事件についても、犯行に及んだ男子たちを責めるのは簡単だ。
だが、そもそもどうして彼らは、そんなにひどいことができたのだろうか。
この青年たちが親にちゃんと愛され、大切に扱われてきたら、こんなことにはならなかったはずだ。
親子の絆を作ることは難問なのかもしれない。私自身、高校に入った頃から、もはや母とは心を通じることができなくなっていた。彼女は私の人生に生涯通じて立ちはだかった障壁であり続けた。
私の周りでも、子育てに悩む友達は沢山いる。自分自身であることと、親や母であることとのギャップに苛まれる人は少なくない。
私には自分の実の子はいないが、イギリスで暮らしていた時、血の繋がりのない3人の息子たちがいた。イギリス人の元夫には、先妻そして別の女性との間に、それぞれ2人と1人の子どもをもうけていた。
親が離婚した家庭の子どもは学業不振に陥る確率が高い。イギリスでもそれは伝統的に統計にはっきりと出ていた。今ではステップファミリー(血縁がない家族が同居)は珍しくもないため、この傾向も変わりつつあるかもしれない。
それでもこの3人のステップチルドレンたちは、離婚していない家庭の他の子どもと比べても遜色がない素晴らしい人生を歩んでいる。長男はオックスフォード大医学部を首席で卒業して医者となり、次男もオックスフォードを出て外交官になり、一番下は現在、米ハーバード大学の工学部の学生で、イギリスのボート競技のチームの補欠選手として東京オリンピックに参加する予定だった。
こうしたことを私は自慢しているわけではない。ステップチルドレンの生き方や親との拘わり方が一番だと言うつもりもない。有名大学に行くことが全てとも思わない。イギリスでも日本でも、学校に行っていなくても成功している人を沢山見てきたからだ。私は自分の子どもに巡り合えなかったが、もしも子どもが生まれていたら、私だったら親として元夫のやり方とは全く違う接し方をしたと思う。
それでもこの子たちは自分を見失うこともなく、健全に成長することができたのは、ある1つのことが常に優先されてきたからだ。前述の家族にまつわるような陰惨な事件を聞く度、それが見過ごされていると感じる。私は多くの親や大人に、なにか参考や閃きになればという思いから、私が観察した元夫と子どもとの関係、その過程から得た知恵をぜひ共有したいと考える。
これを行うためには、その背景となるイギリス社会、エリートと教育制度について説明をする必要がある。そこから始めて、さらにステップファミリーに身を置いて私が学んだこと、元夫が子どもたちと過ごすにあたって何を最も大切にしてきたかということを書き進めてみたいと思う。