![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/87496005/rectangle_large_type_2_0b77e15ee29636467c9a04e83b9ed23f.jpeg?width=1200)
(短編小説) 相棒
バリキャリを夢見て出てきた東京。
気付けばアラフォーに突入し、後輩が続々と出世していっている。この様子だと私の出世への梯子は外されているのだろう、しかし職場では私にしかこなせない業務も多く、私に文句を言える社員はほぼ居なくなった。
あれだけ、自分はなりたくないと思っていたお局というポジションを得たのだろう。しかし、辞める勇気も秀でたスキルも持ち合わせていないので、これからも図々しくこの会社に居座るつもりだ。
あれだけ口酸っぱく結婚結婚と言っていた親も諦めたのだろうか。唐突に遠回しに結婚しないのかと、匂わすこちらの心情に配慮してるのかしてないのかよく解らない電話をよこすことも無くなった。
いやいや、口ではうるさいうるさいと言いつつも私自身は諦めてはいないんだが。
日々スキンケアには手を抜かず、トレンドも押さえ、どこに行っても恥ずかしくない程に自己研鑽しているおかげか彼氏は絶えずできるのだ。しかし、最後に選ばれるのは結局若い女なのだ。
そんな独身貴族街道を突き進む私だが、私にも何でも聞いてくれるパートナーはいる。
私が小学生2年の頃に、昭和の頑固父親のお手本のような父親に、取れるまで泣いて懇願した末、クレーンゲームで取ってくれたウサギのぬいぐるみだ。
取れたときの父親の安堵した表情と満面の笑みは忘れられない。
四十にして、悩み痛みを分かち合える友人も居ないのかイタイなと思われようが構わない。何一つ文句も言わず、何でも最後まで聞いてくれるのだから。
もはやツギハギでボロボロなのだが、この淋しきお局と添い遂げてもらおうと決めている。
しかし、私。疲れているのか?
今、足元でウサギのぬいぐるみが、おば様のような声で私の愚痴に返答している。
「あのモラハラ上司ね、直らないようならもっと上に言ってやりなよ。」と、ポンポンとふくらはぎをくたびれた手で叩いて労ってくれている。
「ちょっとまって!なんで動いて喋ってんの?アナタぬいぐるみでしょ?」
「何でもかんでも、こんだけ長年一緒にいて、毎日毎日愚痴を聞かされてたら、意思の一つ2つくらい持つわよ。」うさぎのぬいぐるみが動いて喋っていることへの驚きは少なかった。むしろ、うさぎのぬいぐるみの言い分は腑に落ちた。
自分も、毎日毎日愚痴を聞かされるなんて不遇なぬいぐるみだなと考えたこともあるし、コミュニケーションがとれたらどれだけスッキリすることかと考えたこともあるからだ。
「アラフォーの独女がぬいぐるみと会話してるなんて、誰かに知られたら生きていけないんだけど。」
「そこは上手くできるでしょ〜。貴方会社でうまーく立ち回ってるじゃな〜い。周りの同期の人はみーんな左遷されたり、クビになったんでしょ?貴方なら私の存在くらい隠し通してくれると信じて話しかけたんだけど。」
流石私の相棒。私の転がし方を心得ている。
幻覚なのか神からの贈り物なのかわからないが、今は真の相棒の出現を、お高いワインで祝おう。
私はニヤッと笑って
「お酒とかいけんの?」
「染みるけど、洗ってくれるなら付き合ってもいいわよ。」