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(小説)小さな命の大きな旅:蚊の冒険譚【第3章:羽化の時】
時が経つにつれて、ボクは徐々に体が変わっていくのを感じた。体の中で何かが動き出して、羽化の時が近づいていることがわかった。ボウフラとしての生活に別れを告げる瞬間がやってきたんだ。
ある晴れた日の朝、ボクは水面に上がった。周りの仲間たちも同じようにしていて、みんな一斉に羽化の準備をしていた。ボクは少し緊張していたけれど、カズオが「大丈夫さ、ボクたちならできる」と励ましてくれた。その言葉に勇気をもらい、ボクは深呼吸をして羽化に挑んだ。
体が水面から出ると、まるで魔法のように変化が始まった。背中が割れて、中から羽が現れた。ボクは羽を広げて、初めての風を感じた。その瞬間、自由を手に入れた気がした。ボクは「やった!飛べるぞ!」と心の中で叫んだ。
しかし、飛ぶことは簡単ではなかった。初めて羽ばたいた瞬間、ボクはバランスを崩してしまい、水面に落ちそうになった。けれども、何度も挑戦することで少しずつ飛べるようになっていった。カズオも同じように苦労していて、「こんなに難しいとは思わなかったな」と笑いながら言った。ボクたちは互いに励まし合いながら、羽ばたく練習を続けた。
ようやく空を飛べるようになった時、ボクたちは沼地の上空を舞った。初めて見る景色は美しく、ボクはその広がりに心を奪われた。草原や森、遠くには人間の住む家々が見えた。ボクは「この世界は本当に広いんだな」と感動し、これからの冒険に胸を膨らませた。
その日の午後、ボクとカズオは新しい世界を探索することにした。まずは近くの花畑に向かった。花の蜜を吸うために、ボクたちは花びらに止まり、甘い香りを楽しんだ。ボクは「これが自由ってことなんだ」と感じ、心が踊った。
しかし、楽しい時間は長く続かなかった。突然、巨大な影がボクたちの上に現れたんだ。見上げると、それはトンボだった。トンボは鋭い目でボクたちを狙い、急降下してきた。ボクは「逃げろ!」と叫び、必死で羽ばたいた。カズオも一緒に逃げたけれど、トンボの速さには驚いた。
なんとか木の陰に隠れてやり過ごしたけれど、ボクは心臓がバクバクしていた。「これが自然の厳しさなんだな」と実感し、これからの困難に立ち向かう決意を新たにした。
羽化して新しい世界に飛び出したボクは、まだまだ冒険の途中だ。これから何が待ち受けているのか分からないけれど、ボクは自分を信じて進んでいこうと決めた。これが、ボクの新しい人生の始まりだった。