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(小説)安眠カフェの恋模様【第3章:ミス・パンプキンの登場】

春の暖かい日差しがカフェ「安眠」の窓から差し込み、店内を明るく照らしていた。カフェの一角では、常連客たちがそれぞれの時間を楽しんでいる。その中に、いつも一人静かに座る女性の姿があった。志田玲実だ。彼女は今日もシナモンティーとパンプキンパイを注文し、窓際の席に座っている。

玲実の席から見える庭には、季節の花が咲き誇り、風に揺れていた。彼女はその景色を眺めながら、シナモンティーの香りを楽しんでいる。パンプキンパイを一口頬張ると、その甘さとシナモンの風味が口いっぱいに広がり、心がほっとする。玲実にとって、このカフェは日々の喧騒から逃れ、心を休める場所だった。

カウンターの向こうでは、石山鷹尾が忙しくコーヒーを淹れていた。彼はふと玲実の姿に気づき、内心で緊張していた。彼女に対する思いを抱えながらも、どう接して良いか分からず、ただ見守ることしかできなかった。

その日、カフェには沢田実と吉川正治も訪れていた。二人はいつもの席に座り、コーヒーを楽しんでいる。実が玲実の方をちらりと見て、「今日も来てるね、彼女」と正治に囁いた。

「ああ、確かに。あのパンプキンパイが好きなんだな」と正治が答えた。

玲実が初めてカフェ「安眠」を訪れたのは、東京に出てきたばかりの頃だった。新しい環境に馴染めず、心の居場所を探していた彼女は、偶然このカフェにたどり着いた。以来、玲実はこのカフェに通い続け、シナモンティーとパンプキンパイに魅了されていた。

その日も、玲実は窓際の席で静かに過ごしていた。しかし、彼女の心には、カフェのマスターである鷹尾に対する特別な感情が芽生え始めていた。彼の優しさや誠実さに触れるたびに、玲実の心は少しずつ癒されていった。

鷹尾は、玲実に声をかけることができずにいたが、心の中では彼女のことをいつも気にかけていた。そんなある日、実と正治が鷹尾に話しかけた。

「鷹尾さん、玲実さんって素敵な人ですね」と実が言うと、鷹尾は少し照れながらも微笑んで答えた。「ああ、彼女は本当に優しい人だよ」

「もっと話しかけてみたらどうですか?照れ屋な鷹尾さんでも、大丈夫ですよ」と正治が続けた。

鷹尾は深くうなずきながら、「そうだな、少し勇気を出してみるよ」と答えた。しかし、その心には依然として不安が残っていた。

その日、玲実が帰る際に鷹尾は思い切って声をかけた。「玲実さん、いつもありがとうございます」

玲実は驚いた表情を見せたが、すぐに優しく微笑んで答えた。「こちらこそ、いつも美味しいお茶とパンプキンパイをありがとうございます」

その瞬間、鷹尾の心は温かさで満たされた。玲実の笑顔は、彼にとって何よりの励ましとなった。実と正治も、その様子を見守りながら、心の中でエールを送った。

玲実にとって、カフェ「安眠」はますます特別な場所となっていった。鷹尾の優しさに触れるたびに、彼女の心は癒され、次第に新しい環境にも馴染んでいった。彼女の存在が、カフェの雰囲気をさらに温かく、心地よいものに変えていったのだった。

この春の日、玲実の登場がカフェ「安眠」に新たな風を吹き込んだ。鷹尾、実、正治、そして玲実—それぞれの心が交錯し、新たな物語が静かに動き出していくのであった。


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