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Photo by
satomigoro
(短編小説)窓の外の樹
窓から見える一本の樹は、季節ごとにその姿を変える。
春、薄緑の新芽が枝先に顔を出すと、住人は窓際に立って微笑む。「また春が来たんだね。今年もちゃんと芽吹いてくれてありがとう。」柔らかな風がそよぎ、樹の葉が揺れるたびに、その揺れに合わせて住人の心も軽くなる。春の匂いが部屋の中まで届き、窓を少し開けると、鳥のさえずりが耳に心地よい。
夏、樹は深い緑に覆われ、青空を背景に堂々と立っている。「暑くても、君は元気そうだね。私も頑張らなくちゃ。」窓を開けると、虫たちの合唱が外から聞こえ、木陰には心地よい風が通り抜ける。窓越しに感じる涼しさに、住人は一息つく。
秋、黄金色の葉が一枚一枚落ちていく。住人はその姿をじっと見つめている。「少し寂しいけれど、また来年会えるんだもんね。君も休まないと。」地面に積もる落ち葉は、風が吹くたびにカサカサと音を立てて踊り、秋の静けさを強調する。空は高く、冷たく澄んでいる。
冬、枝は裸になり、冷たい風にさらされている。「寒いけど、耐えているんだね。春はもう少しだよ。」窓を閉め切った部屋の中で、住人は暖かい飲み物を手に、じっとその姿を見守る。雪が降り積もる日には、白いベールをまとった樹が静かに立ち、眠るような静けさが辺りを包む。
四季を通じて、住人と樹は言葉を交わさなくとも、互いに寄り添って生きているかのようだった。