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(小説)小さな命の大きな旅:蚊の冒険譚【第4章:初めての恐怖】

羽化して新しい世界に飛び出してから数日が経った。ボクは毎日、新しい発見に胸を躍らせながら過ごしていた。しかし、その日は特別な日になるとは思わなかった。


ボクはカズオと一緒に、人間の住む家の近くに行くことにした。そこには色とりどりの花が咲き乱れていて、蜜を吸うには絶好の場所だった。ボクたちは花の間を飛び回り、甘い蜜を楽しんでいた。その時、カズオが「ちょっと見てみろよ」と言って、人間の家の窓辺を指さした。


窓辺には、人間が置いた美しい花の鉢植えが並んでいた。ボクは「なんて綺麗なんだ」と感嘆し、近づいてみたくなった。カズオも同じ気持ちだったようで、ボクたちは一緒に窓辺に飛び寄った。


その瞬間、ボクの視界が暗くなった。何かがボクたちに迫ってきたんだ。次の瞬間、ボクは猛烈な風圧に襲われた。ボクたちを狙ったのは、人間の手だった。巨大な手がボクたちを叩き潰そうとしていたんだ。ボクは「やばい!」と叫び、必死で逃げた。


しかし、カズオの反応が一瞬遅れた。ボクはカズオが叩き潰されるのを目の当たりにして、凍りついた。心臓がバクバクと音を立てて、恐怖で体が震えた。ボクは必死でその場を離れ、遠くの木陰に隠れた。カズオのことを思い出しながら、「こんなことが起きるなんて」と呟いた。


ボクはしばらくの間、動けなかった。初めての恐怖に直面し、何をすればいいのか分からなかった。でも、その恐怖と悲しみが、ボクの中にある決意を強くしたんだ。「カズオのために、ボクは強くならなければ」と思った。


その日の夜、ボクは仲間たちにカズオのことを伝えた。みんな悲しみに暮れたけれど、ボクはその場で決意を新たにした。「ボクたちはもっと強くなって、生き延びるんだ」と言った。仲間たちも同じ思いで、ボクに賛同してくれた。


それからの日々、ボクたちはお互いに助け合いながら生きることを誓った。ボクは毎日、カズオのことを思い出しながら、自分を強くするための訓練を続けた。飛ぶ技術を磨いたり、素早く隠れる練習をしたり。


こうして、ボクは初めての恐怖を乗り越えるために一歩踏み出したんだ。カズオの勇気を胸に、ボクはこれからも仲間と共に生き抜く力を手に入れるために努力することを誓った。


これが、ボクの新たな決意の始まりだった。恐怖に直面しても、ボクはもう逃げない。仲間と共に、生き延びるための力を身につけるんだ。ボクの冒険は、まだまだ続く。


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