(短編小説)夢を描くカレンダー
大学3年生の沙月は、自室の壁に掛けたカレンダーを眺めながら、今日も静かにため息をついた。カレンダーはシンプルなデザインだが、月ごとのページにはカラフルなペンで予定が書き込まれている。淡いパステルカラーの背景に、赤や青、緑の文字が映えて、どこか楽しい雰囲気を醸し出している。それでも、沙月はどこか満たされない気持ちを抱いていた。
「もっともっと予定がいっぱい入ったらなぁ」
彼女の心の中で、いつもの妄想が膨らんでいく。カレンダーの空白が埋め尽くされ、毎日が誰かとの約束で満たされる。金曜日の夜には好きな人とのディナー、週末は友達とカフェ巡り。それぞれの予定が書かれた日を指でなぞりながら、沙月はその光景を夢見る。
しかし、現実の沙月は外ではシャイで、人との関わりに不安を感じてしまうことが多い。友達と過ごすことは嫌いではないけれど、自分から積極的に誘うことは滅多にない。だから、彼女のカレンダーはいつも少しだけ物足りなさを感じさせるものになっていた。
「もっと、いろんなことを経験したいのに…」
そんな思いはあるものの、実際には行動に移せない自分がいる。朝、ベッドの中で「今日は新しいことに挑戦しよう」と思っても、いざ外に出ると結局いつも通りの一日が過ぎていく。
壁に掛かるカレンダーを見つめながら、沙月は別の未来を想像する。彼氏とドライブして海辺でバーベキュー、親友と一緒にキャンプして星空の下で語り合う、クラブで夜通し踊り明かす…そんな予定がカラフルなペンでぎっしりと書き込まれたカレンダー。それがいつか自分のものになると信じているけれど、今の自分にはまだその未来が遠いように思える。
カレンダーの余白を見つめるたび、沙月は理想の自分を思い描く。もっと明るく、堂々としていて、自信に満ちた自分。そんな自分なら、このカレンダーを埋め尽くすことができるのかもしれない。だが、今の自分ではその未来に手が届かない気がして、少しだけ肩を落とす。
それでも、時間はゆっくりと進んでいく。カレンダーは、淡々とそのページをめくり、少しずつ予定が書き込まれていく。それは変わり映えのしないものかもしれないが、いつかこのカレンダーが沙月の理想でいっぱいになる日が来るはずだ。
ふと、沙月はペンを手に取り、カレンダーの一日の空白に「未来」と小さく書き込んだ。それはまだ何も決まっていない予定だが、それでも彼女の中で何かが始まったような気がした。
沙月の妄想は、いつか現実になるのだろうか。それはまだわからない。でも、彼女はその「未来」という言葉を見つめながら、少しだけ笑みを浮かべた。