ミス_サイゴン製発エンジニアとキム横並びDSC_0867

【Report=続投宣言の市村正親や満を持したキム役抜擢の高畑充希・大原櫻子ら期待高まるミュージカル「ミス・サイゴン」、製作発表記者会見では名曲を次々と披露(2020)】

 「愚かな者たちによる愚かな諍い、戦争が減らないばかりかむしろ増加さえしていく世界情勢にあって、『ミス・サイゴン』が演じられるべき意味は年々大きくなっているのだ」。今から4年前の2016年、ミュージカルの金字塔的作品「ミス・サイゴン」が日本で上演された時、既にエンタメ批評家として活動をしていた私はその劇評にそう書いた。しかし4年経った今、その「意味」はますます大きくなっている。なぜなら、愚かな諍いや戦争はますます深刻化しているからだ。そんな中、今年5月から9月にかけて東京、北海道、長野、大阪、静岡、富山、愛知、福岡、埼玉の各都道府県でミュージカル「ミス・サイゴン」の全国ツアー公演が行われる。このほど東京都内で開かれた製作発表記者会見では、前回の2016年公演での「ファイナル宣言」を撤回した市村正親が「息子がクリスをやるぐらいまでは、できるだけ長く続けたい」と力強く続投宣言したのをはじめ、新たにキム役に抜擢された高畑充希、大原櫻子、屋比久知奈が、「わくわくが膨らみました。稽古がすごく楽しみ」(高畑)、「いろいろ勉強して励みたい」(大原)、「覚悟を持って臨みたい」(屋比久)と三者三様の気合いの入ったところを披露。エンジニア役に加わる伊礼彼方も緊張した表情を見せながらも、「盗めるところはとことん盗み、『市村さんにはできないエンジニアを』とギラギラした気持ちでいます」と秘めた野望を口にして盛り上げた。(写真は、ミュージカル「ミス・サイゴン」の製作発表記者会見に勢ぞろいしたエンジニア役4人とキム役4人のキャスト。左から東山義久、伊礼彼方、駒田一、市村正親、高畑充希、昆夏美、大原櫻子、屋比久知奈)=撮影・阪清和
 ミュージカル「ミス・サイゴン」は5月23日から6月28日まで東京・丸の内の帝国劇場で、7月3~6日に札幌市の札幌文化芸術劇場hitaruで、7月10~12日に長野県松本市のまつもと市民芸術館で、7月16~19日に大阪市の梅田芸術劇場メインホールで、7月25~27日に静岡県浜松市のアクトシティ浜松大ホールで、7月31日~8月2日に富山市のオーバード・ホールで、8月13~16日に名古屋市の愛知県芸術劇場大ホールで、8月20~30日に福岡市の博多座で、9月4~6日に埼玉県川越市のウェスタ川越大ホールで上演される。それに先立つ5月19~22日にはプレビュー公演が開かれる。
 東京公演のチケット一般発売日は5月分が3月7日から、6月分が3月21日から。他の公演はご自身でお調べください。記事の最後に各劇場のチケット販売ページへのリンクが貼ってあります。

★阪清和のエンタメ批評&応援ブログ「SEVEN HEARTS」でも読めます(劇評など一部のコンテンツは有料ですが、ニュース記事はいまのところ無料です)

★ミュージカル「ミス・サイゴン」公式サイト

 当ブログでは、これまで2012年、2014年、2016年のミュージカル「ミス・サイゴン」日本公演の劇評を掲載しています。ストーリーなどはそちらでお読みください。ネタバレになる記述はありません。劇評の全文は原則として2018年4月8日以降は有料で公開しており、これより前の劇評についても順次有料化していっています。ここに挙げた3つの劇評は現時点では無料で全文読めますが、いつ有料化(と言っても300円程度ですが)されるか分かりませんので、事前にご承知おきください。

★阪清和のエンタメ批評&応援ブログ「SEVEN HEARTS」ミュージカル「ミス・サイゴン(2016)」劇評=2016.11.05投稿

★阪清和のエンタメ批評&応援ブログ「SEVEN HEARTS」ミュージカル「ミス・サイゴン(2014)」劇評=2014.08.02

★阪清和のエンタメ批評&応援ブログ「SEVEN HEARTS」ミュージカル「ミス・サイゴン(2012)」劇評=2012.08.27

 ミュージカル「ミス・サイゴン」は、1989年、プロデューサーのキャメロン・マッキントッシュが、「レ・ミゼラブル」の黄金コンビ、アラン・ブーブリルとクロード=ミッシェル・シェーンベルクとともにロンドンで初演。1991年には米国ブロードウェイで上演され、1992年には帝国劇場で日本初演が行われている。世界28カ国300都市で上演され、日本では2008年に通算1000回を突破するなど、「レ・ミゼラブル」と並び、絶対的な人気を誇ってきた作品だ。
 英国ではロンドン初演版の演出から2004年に新演出版に移行し、2012~13年に日本でも新演出版で上演。さらに新しく演出が加えられた2014年公演が世界最新演出版として上演された。2016年にも再演され、これまでに日本では1463回上演されている。

 製作発表記者会見には、エンジニア役の市村正親、駒田一、伊礼彼方、東山義久、キム役の高畑充希、昆夏美、大原櫻子、屋比久知奈、クリス役の小野田龍之介、海宝直人、チョ・サンウン、ジョン役の上原理生、上野哲也、エレン役の知念里奈、仙名彩世、松原凜子、トゥイ役の神田恭兵、西川大貴、ジジ役の青山郁代、則松亜海のプリンシパル20人と約40人のアンサンブル俳優が出席した。

 初演から通算853回もエンジニアを演じている市村正親はオリジナルスタッフらにも高い評価を受けており、「ミスター・サイゴン」と呼ばれるほど。2014年公演は病気の治療のため、5ステージのみで途中降板したが、2016年に復帰。その公演をファイナルとしたが、今回見事それを撤回して続投することになった。
 私も含め報道陣は確かに前回「ファイナル」としたことを覚えているのだが、市村は「前回、卒業しようとは思っていなかった」と冗談めかす。「『卒業する』と言う方がお客さんが入るかなと思って」と会場を爆笑に誘った。「今は『続けられる限りやって』と言われていてます」ときっぱり。「120歳…」と言いかけて、「できるだけ長く」と言い直し、さらには「あっ、息子がクリス役をやるくらいまで」と最もスポーツ紙やワイドショーが喜びそうな言葉を口にして、会場は大爆笑となった。
 そしてやはりこの作品への思い入れは誰にも負けないようで、「またゼロからやってみたい。なるべく前にやったことのないような方向から、演出家と一緒に創っていけたらいいな」と新しい表現にも挑戦する意気込みを見せた。

 今回、エンジニア役には2014年に就任した駒田一も続投。「がむしゃらで何も覚えていない」という2014年と違って2016年はようやく「地に足がついた感じ」で意識的にいろんなことができるようになったようだが、今回も気合い十分だ。自己アピールを求められた駒田は「4回観れば、みんな幸せになれる」と自分だけ目立つことを巧妙に回避。「それぞれが自分なりのエンジニアを稽古場で作っていくのが楽しみです。ただ、4回観ていただくのがいいと思う」と繰り返して笑わせた。
 新たにエンジニアとなるのは2人。数々のミュージカルで鳴らしてきた中堅世代のリーダー、伊礼彼方は「まさか市村さんの隣に居ることでこんなに緊張するとは想像していなかった。やはり歴史を作った方なんだなあって思います」といつもはワルぶっている伊礼にしては柄にもない緊張ぶり。それでもエンジニアがフランス系ベトナム人という設定であることに思いをいたし自身を「(4人の中では最も)フランス人寄りのエンジニア」であると表現してみせる洒落者ぶりも見せた。
 そして初参加はもう一人。ミュージカル「エリザベート」でトートの後ろで華やかに踊る「トートダンサー」の出身である東山義久だ。「帝劇に帰ってこられて、身が引き締まる思い」と「エリザベート」で慣れ親しんだ聖地に戻り、安心感と高揚感を同時に抱いている様子をうまく表現した。「他の3人のまねはできないので、脚を無駄に上げるとか、柔軟性を生かすとか…」とダンサーの意地を見せた。「まあ嘘ですが…」と否定しつつも「僕なりのエンジニアをやれたら」と、秘策を胸に抱いているようだった。

 キム役は昆夏美以外すべて新参加。
 数々のドラマ、映画での演技が高い評価を受け、ミュージカル「ピーターパン」出身者としてその歌唱力も高いことが知られている高畑充希は子どものころからミュージカル、そして「ミス・サイゴン」が大好きだった。ヘリの舞台機構が停止してエンジニア役の筧利夫が15分間トークし続けたというめったに見られない回も観劇していたという。「子どもの頃から『ミス・サイゴン』を観ていたので、憧れのカンパニーに入れた事が最高にうれしい」と微笑むが、実は「キムはすごく大変な役で、遠い存在だと思っていた」のだという。しかし「今年28歳で、もしチャレンジできるならそろそろ最後なんじゃないかと思ったので、ダメ元でオーディションを受けてみようと思って受けてみたのが一昨年です」と経緯を説明。オーディションに合格し、キム役への起用が決定したことには「びっくりしたし、嬉しかった」と振り返った。
 ところが今は「どうしようという感じです」と打ち明ける。よく歌っているイメージのある高畑だが、ミュージカルは7年ぶり。「(ボイストレーニングも)全然やってなかったんです。なので、お尻に火がつきまして…」と言うと、市村がお尻をのぞき込むほほえましいシーンも。
 大原櫻子はもともとミュージカルが大好きな少女で、幼いころのピアノの発表会でなぜか大原だけ「ミス・サイゴン」の楽曲を歌ったこともあるという。デビューした映画『カノジョは嘘を愛しすぎている』の打ち上げの時にも「ミス・サイゴン」の歌を歌い、「そこからスタッフさんが初舞台のオファーをくださるなどすごくご縁のある作品なんです」と語る。
 それでもオーディションを受けようと思った直接のきっかけは「ブロードウェイでエヴァ・ノブルザダが出演する『ミス・サイゴン』を観て、演じたい気持ちが高まった」ことだという。「いろいろ勉強して励みたい」と意欲的な表情を見せた。
 「ギター女子」の代表格のシンガー・ソングライターとして知られる大原だが、近年はもともとの志望だった俳優としての活躍も増え、舞台作品のキャリアがずいぶんと豊かなものになっており、キム役での挑戦には大きな期待を抱かせる。
 屋比久知奈は「(キム役を演じた)レア・サロンガに似ている」と言われたことがあり、劇中曲「命をあげよう」を初めて試聴。2016年に帝劇で開かれたイベント「ミュージカルのど自慢」で「命をあげよう」を歌って、最優秀賞を獲得した。「プレッシャーと責任を感じながら、作品のことを勉強しています」と真剣な表情になり、「キムとして帝国劇場で歌えることを喜びつつ、覚悟を持って臨みたい」と自分にとっての夢の出発点でのキム役に大きな意味合いを感じているようだった。
 昆夏美は3度目のキム役となるが、前回2016年公演は声帯結節で休演しており、反省しきり。「皆さんにたくさんご迷惑をおかけしましたし、何よりお客様に申し訳ない気持ちで、とても悔しかったです」と表情を曇らせたが、「戻ってこられて本当にうれしいです。キムをいちから作っていきたい」と4人の誰よりも意欲を見せていた。

 クリス役は3人。
 2度目となる小野田龍之介は「4年経ったからこそ感じられる、クリスとほかのキャラクターの関係性を大切にしながら務めたい」とさらなる繊細な表現にこだわる。
 数々の劇団四季作品や「ジャージー・ボーイズ」で知られる海宝直人は2008年にアンサンブルとして「ミス・サイゴン」出演経験を持つという。あいさつに立った海宝は「当時は19歳で、公演中に20歳になりました」と振り返り、「クリスを誠実に、繊細に、大胆に演じたい」と新たなはまり役誕生の予感を抱かせた。
 チョ・サンウンは、海外版「ミス・サイゴン」に出演経験を持つ。「日本で舞台に立つのは10年ほど前に劇団四季作品に出て以来です」と語り、「(カンパニーの)友達みんなと仲良くなって、一緒にがんばりたい」と何よりもコミュニケーションを大事にして臨む姿勢を見せた。

 会見に先立って、キャストらが登場するタイミングで、全員が「火がついたサイゴン」を歌いながらという趣向が。さらにフォトセッションや質疑応答の後には、キム役とクリス役7人による「世界が終わる夜のように」、トゥイ役2人(神田恭兵、西川大貴)による「トゥイの死」、クリスの後の妻エレン役3人(知念里奈、仙名彩世、松原凜子)による「今も信じてるわ」、エンジニア役4人による「生き延びたけりゃ」、キム役4人による「命をあげよう」、クリスの友人、ジョン役の2人(上原理生、上野哲也)と男性アンサンブルによる「ブイ・ドイ」、エンジニア役をキャストに全員による「アメリカン・ドリーム」と次々と名曲が披露され、会場に招待された200人の一般オーディエンス(観客)をうっとりさせていた。

 ミュージカル「ミス・サイゴン」は5月23日から6月28日まで東京・丸の内の帝国劇場で、7月3~6日に札幌市の札幌文化芸術劇場hitaruで、7月10~12日に長野県松本市のまつもと市民芸術館で、7月16~19日に大阪市の梅田芸術劇場メインホールで、7月25~27日に静岡県浜松市のアクトシティ浜松大ホールで、7月31日~8月2日に富山市のオーバード・ホールで、8月13~16日に名古屋市の愛知県芸術劇場大ホールで、8月20~30日に福岡市の博多座で、9月4~6日に埼玉県川越市のウェスタ川越大ホールで上演される。それに先立つ5月19~22日にはプレビュー公演が開かれる。

★チケット情報(東京公演・札幌公演・長野松本公演・大阪公演・静岡浜松公演・富山公演・名古屋公演・福岡公演・埼玉川越公演)=完売が予想されます。最新の残席状況についてはご自身でお確かめください。

★福岡公演はリッチリンクにすると文字化けしますので、通常のリンクで表示します

https://www.hakataza.co.jp/lineup/202008/miss_saigon/


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