男のロマンチシズムを完全フル装備…★劇評★【ミュージカル】 グレート・ギャツビー(2017)

 米国文学を代表する作品で、英語小説の最高峰のひとつ「グレート・ギャツビー」。ひとりの男の虚無的な心のさまよいを大恐慌を目前にした浮足立つ米国の狂乱の世相の中に描き出したスコット・フィッツジェラルドのみずみずしい文章は、100年近く経った現代に至っても人々を魅了し続けている。『華麗なるギャツビー』としてよく知られた1974年のロバート・レッドフォード主演映画、2013年のレオナルド・ディカプリオ主演映画をはじめ、何度も映画化されているが、宝塚歌劇で1991年に世界初のミュージカル化を成し遂げたのは日本のミュージカル界が誇る演出家の小池修一郎。その小池が脚本・演出を一新した上、楽曲も新たにブロードウェイデビュー直前の新進気鋭の作曲家リチャード・オベラッカーによって全編書き下ろされた新作ミュージカルとして「グレート・ギャツビー」を再び世に問うている。しかも小池ミュージカルの申し子とも言える井上芳雄が男のロマンチシズムを完全フル装備したようなギャツビーに挑戦するとあって、ファンの期待値は創り手たちにとっては見上げる高い壁のようになってそそりたつ。しかしこの挑戦的な創り手たちとキャスト陣は、その壁をはるかに超える作品を創り出してくれた。
 ミュージカル「グレート・ギャツビー」は5月8~29日に東京・日比谷の日生劇場で、6月3~15日に名古屋市の中日劇場で、7月4~16日に大阪市の梅田芸術劇場メインホールで、7月20~25日に福岡市の博多座で上演された。

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