理想と現実
人間がこの世界を認知・把握する為の役割を担う唯一の器官である脳。脳が全てを統括し、情報を精査し、その人にとっての「真実」を組み立てる。
例えば教育現場では「ゲームは子供にとって悪影響か否か」という論争が延々と繰り返されていますが、結論から言うと「ゲームの内容によるし、適切な時間の割り振りが出来ているかどうかによる」と思う。
マリオのような反射的な判断力や状況を把握する能力が必要とされるアクションゲーム、知能や思考力を必要とするパズルゲーム、物語を疑似体験するRPGなどが、それぞれ集中力や咄嗟の対応力・反射神経、思考力、判断力を高め、他者の気持ちを理解し、疑似体験を通して情緒が豊かになり、語彙力や知識が増えるなどメリットは沢山あります。
それは本を読んだり、将棋やオセロのようなリアルのゲームをしたりするのと同じことで、現実より複雑で情報も多くより豊かなバーチャルリアリティ体験が、ゲームでは体験出来るということ。
生活において適切な遊びの時間のコントロールが出来ていればプラスに働くことは沢山あります。そもそも、あまり頭が良くない人はゲームすら出来ませんしね。
ただ1つ、脳に非常に良くないゲームがあります。それが「戦争ゲーム」なんですね。
脳はそれが現実かフィクションかの区別があまりつきません。その為、ある研究では「戦争ゲームによる他者から攻撃された、命が脅かされたと感じる怒りや恐怖は、現実に戦争に参加した兵士と同じくらい脳に強いショックを与える」という結果が報告されています。
戦争に参加した兵士が、ドーパミン分泌や恐怖によるストレスで脳にダメージを受けて精神的に不安定になるように、四六時中戦争ゲームで過度の興奮や怒りに囚われた生活をしていると、非常に脳に悪影響を及ぼすんですね。
海外ではそういった戦争ゲームジャンキーが、注意した母親を殺害するなどの事件も起きています。
それが現実か仮想かに関わらず、脳は体験に対してありのままに反応するし、それに伴うホルモン分泌も起こるし、良いことも悪いことも小さなことも大きな出来事も全ては無かったことにはならないんですね。忘却はすると思いますが。
脳は現実と仮想の区別がつかないまま、ニューロンが構築されるし、ホルモン分泌も起きる。だからこそ、理想(仮想)と現実の擦り合わせってものすごく大切なことだと思います。
SNSで一人ひとりが思考を発信でき、それを覗き見ることが出来るようになった現代。推し活ブームもあり様々な人達が頭の中で作り上げた偶像を崇拝し、その理想の世界で都合の良い妄想をしてエクスタシーを感じていたりする。
それって決して特殊な人ではなく、全ての人がそういう一面を持ち、むしろ現実との擦り合わせなんてできる人の方が少ないんだろうと思います。
完全に自己完結しているなら、頭の中で作り上げた理想の偶像に適う現実なんて存在しないわけで、脳の中に築き上げられた心地いいだけの理想郷、非の打ち所のない都合の良い偶像を思い描き、それに対して恋愛ホルモンや愛情ホルモンを感じられるとしたら、厳しい現実や生身の人間なんてなんの用もないってことになっちゃいますよね。
実際そういう「ガチ恋」さんたちのアカウントなども沢山見つけられます。❤で埋め尽くされて、恋人に語りかけるようにひたすら推しにラブコールし続ける。
しかし暴走した理想郷は当然現実と乖離し続けるし、その齟齬が時折、現実として彼(彼女)らの目の前に突きつけられることもある。すると彼(彼女)らは怒り狂い、強烈なネガティブの暴走を始めてしまいます。
最近もアイドルが俳優と恋愛していたことが発覚し、理想郷に冷水を浴びせられたガチ恋勢が怒り狂ってしまいましたねぇ。アイドルなんて商売は疑似恋愛を売り物にしたホストキャバクラ商法なんで、まぁ当然そうなるでしょうというしかないんですが。
「推しと本気で結婚できると思ってるの?www」みたいな嘲笑する人もいるんですけど、「頭の中で作り上げた自分の都合の良い偶像」は、その人の脳に本当に恋愛ホルモンを分泌させるし、性的興奮も呼び起こさせるし、脳は仮想と現実の区別なんてあまりついてないんですよね。
だから彼らの怒りって「自分の都合の良い偶像」が穢され取り上げられた怒りなんじゃないかなと思う。むしろその雛形であるはずの推しに対してさえ、偶像の彼・彼女を穢すなという怒りが向けられる。
同担不可っていうのも嘲笑の対象にされやすいけれど、「自分からみた自分だけの推し」と「別のファンからみた彼(彼女)だけの推し」でさえ大きな齟齬が生まれて、その違和感やマウントの取り合いなどに耐えられなくなるんだろうと思います。
アイドルやキラキラした芸能人やミュージシャンが、そういう都合の良い性的対象として偶像崇拝されていくことで、貢いだり応援したりと爆発的な経済効果を生み出す一方、当然彼ら彼女らにあるはずの幸福な人生や人権というものが著しく無視される、毀損されるというのは大きなジレンマになりますよね。いくら理を説いても、感情的に暴走している人達に理屈なんて通用しませんので。
ファンたちにあまり暴走させず、現実との擦り合わせを都度行い続けないと、いずれ堪えきれずに崩壊する羽目になる。
こういう問題って「推し」と「ファン」だけの問題じゃないんですよね。案外世の中の「恋」って、どこか皆そういう部分があると思う。
相手を好きだと思って恋心を募らせていく一方で、想うばかりで現実の相手との情報のすり合わせが出来ずにいると、自分の頭の中の都合の良い理想を作り上げてしまい、それが現実とどんどん解離していく。
それで自己完結しているうちはなんの問題もないんですが、現実的に交流したり、お付き合い始めたり、結婚したりとなっていくと、齟齬が違和感となってギクシャクしてしまう。自分の思い通りに振る舞わない相手に対して、怒りや攻撃に変化することもありうる。相手本体を放置して相手が悲しんでいたり苦しんでいたりしても気付きもしないということにもなる。むしろそんな「いうことをきかない生身の人間」なんて必要ない…なんてことにもなりかねない。
まぁ今後のアイドルは完全にAIになるんじゃないかと思ったりしますけどねー。自分の都合の良い理想郷に没入して現実が受け入れられなくなったら、現実の相手とはいがみ合ったり身勝手な性欲だけだったりでろくな繁殖も出来なくなるし、本当に人類滅びるんじゃないかと思ったりもします。
理想(妄想)に暴走せず、現実をしっかり直視して、都度乖離を修復していく作業って、対人関係において絶対に必要なものだと思うんですよ。
理想の偶像崇拝には、現実の人間なんて絶対にかなわないので。理想と違う現実が突きつけられると、心が認知的不協和でザワリとなるのが当たり前なんで。
相手のありのままを見て「そうか、この人はそういう人なんだな」「そんなふうに考えているんだな」ということをありのままに受け入れることと、相手のパーソナリティを無視して直視せずに勝手に分かった気になっているのとでは全く違うんですよね。