【雄手舟瑞#33-インド編】旅の終わり、デリーから東京へ(8/29-9/2)
8月29日の朝8時。カトマンズからデリーに戻った。7月27日に日本から一人この地に降り立って約1ヶ月。空港に着いて間もなく拾ったタクシーに変なところへ連れて行かれ、ボッタクリに合ったり、ボッタクリ旅行代理店で客引きしたり、素敵な出会いがあったり、皆既日食を見たりと色々あった。
ウンザリだった客引きの嵐もエネルギーも今となっては温もりに感じる。
この旅で二度目、正確には三度目のデリーでは騙されることもなく、スムーズに宿も取れ最後の滞在を楽しむ。
オールド・デリーにコンノート・プレイス、メイン・バジャール。自分へのお土産として民族衣裳を買ったり、ムンバイ振りにマハラジャ・マックを食べてみたり。
もう成り行き任せに旅を始める時間はない。それが少し物足りない。トラ、カトミはピンクのイルカを見れただろうか。チカブンはポカラを楽しんでるだろうか。少し羨ましい。
ただトラブルがあったおかげで、もう十分に初めての海外旅行を楽しんだと思う。二十歳の夏。一生の思い出だ。夏自体もそろそろ終わり。
最終日、僕は空港に向かう前、僕が客引きをしていたあのボッタクリ旅行代理店を最後一目見てやろうかと思った。しかし似たような店ばかりで残念ながら見つからず。あの当時はほぼ軟禁状態だったので土地勘が全然身につかなかったから仕方ない。それはあっさり諦めて、今回はしっかりバスで空港に向かった。
空港に向かうバスには客引きも乗ってこないんだなと、あの三人に出会った時を思い出しながらバスの車窓から土煙り立ちのぼる街を眺める。
1時間の移動で空港に着く。これまで30時間単位で移動してきたから、あっと言う間だなと、ちょっと旅慣れたような大きな気分になる。そう言えば、この旅のキッカケだったテニスサークルの夏合宿への参加拒否のことなんかもすっかり忘れていた。
僕は一皮剥けた。そんな風に思った。
預け入れる荷物はない。この小さなバッグ一つにTシャツ2枚、下着2枚、それに芯を抜いたトイレットペーパー2ロールだけで来た。出国の手続きをし、搭乗ゲートに向かった。
そしてロビーで椅子に座ろうとした。その時。
「あっ」という声が聞こえた。
声のする方に視線をやると僕と同じくらいの男子学生2人と目が合った。
「あっ」と僕も応える。
僕が客引きをして、唯一逃さなかったあの大学生達だった。僕は「ご無沙汰してます!同じ便だったんですね。ところであの後はどうでした?楽しめました?」と聞いた。
すると彼らは複雑な表情を浮かべる。「あ、あぁ、そうですね、楽しいってもんじゃなかったですよ。あの後、雪山に連れて行かれました。」
僕は心の中で思った。(雪山!?それはマズそうだ。)
「僕たちは4人だったの覚えてますか?」
「は、はい。そうでしたよね」
「実は残りの2人は、もうやってられねぇと途中でキレてしまって先に帰っちゃったんです。まぁ僕ら2人はその後ではそれなりには楽しんだんですけどね」
「そうだったんですか…」僕はそれ以上は気の毒で言葉が出なかった。僕の充実した旅の話などは以ての外だ。同じ大学だったはず。ここは穏便に済ませよう。
「それはすいませんでした。僕が余計なことをしたせいで、せっかくの旅だったのにご迷惑をかけてしまって」
彼らは意外にも全く怒る様子もなく、「いや、いいんですよ。僕たちは2人は楽しめましたから。もがくこともせずに、途中でただキレて帰っちゃうなんて僕らもちょっと呆れてたんです」と言って、「ではまた」と彼らは去って行った。
そして飛行機は東京に向けて飛び立った。
9月2日。7時間弱のフライトを終え、1ヶ月ぶりの家に戻った。それからしばらくの間、僕は恍惚感に包まれていた。
まだ全然暖かい。夏の夜はチャリでぶらぶらしたくなる。インドの民族衣裳に着替え、外に出る。
「すいませーん」
気分よく夏の夜風のなか、行く当てもなくチャリを漕いでいた僕。警察に宗教団体の信者と思われ職質を受ける。
インドの思い出の品を着ることはもうなかった。
(ここでインド編はいったん終わり。雄手舟瑞物語はつづきます)
※次回は明後日掲載予定
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