【雄手舟瑞物語#15-インド編】仕事6日目(中編)、限界からのチャンス(1999/8/5)
昨晩の出来事があってから気分が悪い。重い。そんな中、今日の午前中もデリー市内のいつものマクドナルドにラジャと二人で客引きに行った。一人の日本人バックパッカーを見つけ、ラジャが声を掛ける。見た目は、いかつそうな感じはしなかったが、
「あ、なんやコラ」
下から舐めるようにラジャの顔を睨みつけ、関西弁でまくしたてる。ラジャは日本語は分からないが、その威圧感にあっさりと「Sorry.」と言って引き下がり、「もう出るぞ」と目で僕に合図を送った。
・・・客引きで嘘をついていること、バックパッカー達を逃がそうとしているのがバレそうなこと、ホテルでの出来事・・・
彼の毅然とした態度を見た時、僕は自分自身が今していること、今の状況に限界を感じた。もう無理だった。
ツーリスト・オフィスに戻る道で、僕は「疲れた。気分が悪い。」と深刻な面持ちでラジャに伝えた。「大丈夫か?どうしたんだ?」とラジャは心配そうに聞き返してきた。
僕は、「全然大丈夫じゃない。やっぱり君たちがやっていることは良くないことだ。君たちは人を騙しているんだろ? ツーリスト・オフィスっていうのは、旅行客の旅をより良いものにしようとするのが仕事だろ? ボッタクられた旅行者は旅を楽しめると思うか?」と率直な意見を言った。
急な物言いに、ラジャは戸惑いながらも「いや、、そうは思わない。」と答える。
「だったら、真面目に考えるべきじゃないのか? もし君たちが信用できる本物のツーリスト・オフィスだったら、ボッタクらなくてもちゃんとお客さんは来る。それを考えるのが経営するってことじゃないのか? それどころか君たちのやっていることは、インド自体の印象を悪くしているんだぞ。」と僕は続けた。
ラジャは困りながらも「お前の気持ちは分かった。顔色も悪いから、今日の午後は仕事を休め。」と言った。僕の様子を心配してくれたようだ。そして、「実は、来週から新しくツーリスト・オフィスをオープンすることになったんだ。お前が今言ったことを考えて、ちゃんとしたツーリスト・オフィスにしたい。だから、お前も新しい場所で一緒に仕事をして欲しい。客引きはしなくていい、オフィスにいて俺たちにアドバイスをしてくれ。それでどうだ?」突如、新しい提案が上がってきた。
でも、僕は、もうそろそろ旅を再開したかった。
「とにかく今日は休め。」
ラジャは僕を落ち着かせようと再び僕に声を掛け、僕たちは一旦、ツーリスト・オフィスまで戻った。一昨日まではツーリスト・オフィスの同僚の家を転々とし、昨日は久々にラジャの家に泊まった。今日はまた誰かの家に泊まるということで、事務所に僕の荷物を持って来ていた。ラジャは、僕のバックパックを手に取ると、近くにある仲間のホテルまで僕と一緒に出かけて行った。
僕たちはホテル2階、奥から2番めの部屋に通された。ダブルベッドが置いてある、そこそこキレイな部屋だ。隣の部屋には、ちょうど同じタイミングでチェックインしていた白人のおじさんが入っていった。
ラジャは僕の部屋に荷物を置くと、「また後で顔出しに来るから、ゆっくり休んでてくれ。」と言い残して仕事に戻る。
つ、
つ、
ついに、
ついーに、チャンスが来た!!!
荷物がここにある。
そうなのだ。昨日まで、僕の荷物は、連泊している同僚の家か事務所に置いてあったのだ。
この1週間で初めて僕と僕のバックパックだけになった。
僕の考えた作戦は、こうだ。
(前後のエピソードと第一話)
※この物語は僕の過去の記憶に基づくものの、都市伝説的な話を織り交ぜたフィクションです。合わせて、僕のいまを綴る「偶然日記」もよかったら。「雄手舟瑞物語」と交互に掲載しています。
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