雄手舟瑞物語#38:良いなと思うけど慣れないーまもなくライブ
秋葉原の音楽スタジオの待合所。2回目の練習。
蛍光灯の下で予約した部屋が空くのを待つ僕と進次郎とマサアキ。
「今日あたりShowboatからNoise Dayの連絡来るかも」と進次郎が言った。
僕にとってはライブは半年ぶり。高校の同級生とスリーピースバンドを組んで、「オリジナルやろうぜ」と意気込み、2曲ばかり作った。一度だけ小さなクラブで機材を持ち込み披露をしたが、その夜には解散してしまった。理由はしょうもない。バンド名で揉めたから。ベースの「メランコリー」と僕の「ボブ」で割れ、ジャンケンの結果「メランコリー」になったが、ミーハーぽいのに納得行かず、僕が「メランコリー・オブ・ボブ」にしようと言ったのが原因。
曲作りも歌詞とか展開とか考えるのが難しく、ギターもコードを辛うじて押さえられる程度で、ちょっとモチベーションが下がっていた。そんなんでしばらくやっていなかった。
当時、僕の好きなドラマーはジョン・スペンサー・エクスプロージョンのラッセル・シミンズとストーン・ローゼズのレニ。どちらもシンプルな構成でグルーヴ感溢れるリズムパターンを繰り返す。それが気持ちよくて好きだった。このバンド-シャー-でも、それは問題なさそうだ。ただシャーでの即興演奏というのが、ちょっと「もったいないな」と思った。ギターもサックスもすごい良いし、曲にすれば、もっとライブにだって出られそうなのに。
そう僕は進次郎に言った。でも、「んー、消えちゃうのが面白いんじゃない。パフォーマンス・アートだよ」だから、このままで良いんだよというのが進次郎の答えだった。
このバンドは進次郎とマサアキのものだし、これ以上僕が言うことはない。予約の時間が来て、僕らはスタジオの中に移動した。
ただ、やっぱり僕は折角だからと思い、持ってきたMDでセッションの様子を録音しようと提案したところ、「いいよ!」となったので、MDをセットする。そして先週と同じようにサックスとギター、ドラムの即興演奏を始めた。
「録音するだけで、何か硬いね」と笑いながら僕が話すと、進次郎も「いつもライブより練習の方が良いんだよね。緊張しちゃう。緊張しないのはマサアキだけ」と笑う。さらに僕は次の提案をした。「なんか演奏中に変化をつける時にさ、合図決めとかない?」「えー、要らないよ。大丈夫」と二人に笑い飛ばされる。でも、僕は何か拠り所が欲しくて、「じゃあ、セッションごとにテーマを決めるのは?とりあえずやってみようと」と言うと、こちらはOKで、最初はマサアキが言った「バンブー」、次は「ブラジル」をテーマに演奏をした。
一旦休憩を挟む。
ちょうど休憩中に、進次郎の携帯にライブハウスのShowboatからノイズ・デーのお誘いの電話がかかってくる。2週間後のライブに参加することが決まった。その後、「ブルース」と「トロピカーナ」というテーマも演り、2時間の練習を終えた。
悪くなかった。「テーマを決めるのも悪くないんじゃない?」と言うと、マサアキも進次郎も「そうだね、でも、まぁどうだろうねぇ」と興味がなさそうに、録音したMDを再生して、さっきの様子を聴いてみていた。なかなか良かった。「でも、やっぱり最初の方は硬いね」と進次郎が笑った。そして進次郎が「そうそう、雄手っち、このCD貸してあげるよ」と言って、ギターケースのポケットから「Ruins」というバンドのアルバムを取り出した。「ルインズって言うんだけど、このドラムの吉田達也がめっちゃヤバい、すっげーんだよ」
家に帰ってルインズを聴いてみると、「コレか」と進次郎がイメージしてる世界が何となく共有できた。進次郎は、つい最近も吉田達也のライブに行ったくらい好きなようで、僕も少しでも雰囲気を掴めればと思って何度か聴いてみた。確かにカッコイイがとても胃への負担が大きい感じだ。進次郎は胃袋が強いんだな。僕にとっては、もうちょいアッサリしたものが丁度よいかもしれない。
ライブ当日。初めての即興演奏でのライブ。持ち時間は30分。この二人はこの一年間ほど毎月やってるわけだし大船に乗ったつもりで、、、とは言い切れず、緊張というか漠然とした不安があった。「そういえば高校の時にも高円寺でライブしたことあったなぁ」と20000Vというライブハウスのことを思い出しながら、Showboatのある商店街を一人歩く。
真っ暗な階段を下りていくと、進次郎とマサアキがもう先に着いていた。
「おぅ、雄手っち!」とマサアキが声を掛けてくれた。
不安が緊張に変わってきた。
(つづく)
※次回は明後日更新
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