雄手舟瑞物語#37: 初セッション
土曜日、夕方、秋葉原。
JR秋葉原駅から昌平坂を御茶ノ水方面に向かう。その右手に音楽スタジオがある。
三階の受付に着く。見回すと、まだ誰も来ていないようだ。
スタジオを予約してくれたマサアキ君の名字が思い出せない。確かウメハラ、、そんな感じ。
僕は「ウメハラで予約してると思うんですが」と受付のお姉さんに伝えみた。
「ウメハラさんの予約入ってませんよ」
違った。ウメハラじゃない。
「もしかしたらウメカワかもしれません」
違うようだ。お姉さんのかわいらしい表情が曇る。
「下の名前で呼ぶ友達って、名字分かんなくなりますよね」
共感してくれた。セーフ。仕方ないので僕は苦笑いを浮かべながら「待つことにします」と伝えると、それはしょうがないですね、と言うような困り顔を見せてくれた。
その後すぐ進次郎が入ってきた。
「いやぁ雄手っち、待たせちゃってごめんごめーん」
マサアキの名字はウメハラでもウメカワでもなく、ウメザワだった。
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Aスタジオ。
僕はドラムの椅子に座る。太鼓の高さや位置を調整する。進次郎はギターをケースから取り出し、アンプのスイッチを入れる。使うエフェクターはワウペダルだけ。進次郎のセッティングは直ぐに終わる。そしてギュワンと図太くギリギリした音が鳴る。そしてシャカシャカとギターが言い始める。
僕も小さいタッチでリズムを合わせていく。気持ちがいい。
進次郎がギターと共に雄叫びをあげる。僕も続いてみる。楽しい。
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マサアキが防音ドアの窓から見えた、と思ったら通り過ぎる。しばらくして入ってきた。
僕たちは演奏を続けている。マサアキは急いでケースからサックスを取り出し、吹く。一瞬のうちに音の輪に踊るようなサックスの音が加わる。
ドラムとサックスとギターのジャム・セッション。
途中途中でお互いの楽器を入れ替える。マサアキは置いてあるピアノの鍵盤を「うわぁっ」と叩いた。マサアキはドラムも叩き舞う。そして「こんなところで!!」という間合いでブレークを入れる。
マサアキがすごいんです。
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あっという間に予定の2時間が経った。
スタジオを出て、待合所で三人は話し始めた。
進次郎が言う。「マサアキ、今日もキレッキレだったねぇー!雄手っちも良かったよぉー」
マサアキはスゴイ。ただ凄さが変態的だ。進次郎のギターは正統派的にスゴイカッコよかった。全部即興。いわゆるジャズとかの即興ではない。音楽理論は分からないが8割方は絶対メチャクチャだ。この即興を月一でライブでやってるって言うのか。この二人からは得体の知れないものが漂ってる。
確かにカッコイイがそこにはある。
「ショーボートっていうライブハウスが月一で呼んでくれるだけど、何故かノイズ・デーって日に呼ばれるんだよねぇー、ヒャハハハ」と進次郎。
マサアキが「チューニングが、チューニングが」と何か聞き取れない声の大きさで話している。
進次郎が「マサアキどうしたの?」と聞くと、「サックスが壊れててチューニングが合わなくなっちゃったのよ」進次郎は「えっ、いつから?」と聞く。
なんと3ヶ月前からとのこと。今日もイカレタ・チューニングでサックスを吹き放っていたのだ。
進次郎は爆笑しながら「さすがマサアキー!すごいよ、すごすぎる笑 雄手っち知ってる?マサアキはピアノもメチャクチャに弾いてるだけなんだよ笑 なのに、聴けるというかカッコイイ感じになっちゃう。そこが天才的なんだよ、ヒャハハハ」
マサアキも「なんかただ体から湧き出て来るものを出してるだけなんだ。踊りも好きで最近サンバチームに入ったんだよ」とどこまでも本人は感じるままに生きているように見える。
バンド名は「シャー」。本当は記号だけの名前だが、仮で「シャー」と呼んでいるとのこと。僕は「シャー」に入った。
(つづく)
※次回は明後日更新予定
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