【雄手舟瑞物語#22-インド編】皆既日食まであと2日、西部の町ブジに着く(1999/8/8-9)
<前回のあらすじ>
僕たち四人をぼったくりツーリスト・オフィスから救ってくれた救世主は、これから皆既日食を見るためにインド西部のブージという町に行こうとしていた僕たちに「デリーでまたボッタクリに遭わないように途中まで車で行ったらどうだ?」と友人のドライバーを紹介してくれた。僕たちはまたボッタクリに遭うのではと不安だったが、ドライバーの彼は朴訥で律儀だった上に、提示した適正な金額がちゃんとしていたので彼の運転で途中まで送ってもらうことにした。
その後、鉄道に乗り換え、デリーから丸2日かけて、8月9日の夜、僕たちはようやくブージにたどり着くことができた。もう辺りは暗くなっていた。
<今回の話はここから>
カトミが「地球の歩き方」を取り出した。トラとチカブンとカトミはブージで泊まろうとしていた宿を既に調べていたようで、その場所を探した。大きな池をぐるっと周り、入り組んだ小道に入る。狭い階段を上がったところにそのゲストハウスはあった。
ゲストハウスの門をくぐると広めの庭があり、ヒッピー風の西洋人バックパッカー達がベンチで寛いでいた。僕たちは受付に向かい、二部屋を4泊分取った。
「やっと着いたねー」とチカブンが言った。
僕たちは男女に別れ、それぞれの部屋に荷物を置き、庭にあるシャワーを浴びに行った。完全に水。でも、真夏のインドではそんなに問題ない。僕とトラは、ヒャッヒャ言いながら水を浴びると、その後、西洋人達の輪に加わった。
オーストラリアから来たバレエダンサーの夫婦とその子ども、アメリカ人、ドイツ人、イタリア人の総勢六人がこのゲストハウスに泊まっていた。皆は2日後の8月11日の皆既日食を見るために、一週間くらい前から徐々にここに集まってきたらしい。
「僕たちも皆既日食を見に来たんだ」と言うと、「それなら私たちと一緒に行けばいい。」と、その場のリーダー的な存在で、やたら歩く姿勢がカッコいいバレエダンサーのお父さんがありがたい誘いをしてくれた。他の皆も喜んで同意してくれた。
話を聞くと、ここから車で30分くらいのところに砂漠があって、そこで皆既日食を皆で見る計画らしい。タクシーやスピーカー、ミキサーも手配してあるということだった。初海外の僕は生まれて初めて、西洋人たちの推進力の凄さをここで体感した。「一人200ルピー(約500円)ずつ貰えるかな?あとは心配しなくていい。君たちはついて来てくれば良いよ。」とリーダーはいかにも頼りなさそうな僕たちを気遣ってくれた。
この日はもう遅かったので、あまり話す時間もなく解散し、それぞれの部屋に戻っていった。僕たちもビールを一本だけ飲み、早々に部屋に戻った。
翌日、皆既日食は明日。今日は一日空いているので、皆でブージの町を探索しに行った。ブージはとても小さな町だ。デリーとは大違いで、客引きする人はいなかった。ブージに来る途中の乗り換え駅のように、外国人が珍しいのか、僕たちを見に大量の人が集まって来ることもなかった。ブージの人たちはとても気さくで穏やかだった。周りに流されず、ゆったりと自然に自分たちの時間を過ごしているようだ。英語が通じることも少なかったが、不思議と会話に困ることもなく、色々町の人たちとも触れ合うことができた。
ブージの町での思い出は何といってもバナナだ。食いしん坊のトラが「バナナ食おうぜ」と言い出したので、マーケットで売っていたバナナを一人一本買った。僕はあまり果物が好きでない。特にバナナはネチョネチョしていて甘いのかバサバサしているのか、よく分からなくて好きではない。ここのバナナは、日本で普段見かけるバナナと違って小ぶりで太かった。折角だからと思い食べてみると、初めて味わった食感で美味しかったのだ。すごいコシと弾力。そして甘みがしっかりある。冷凍バナナが軽く溶けた時の食感に似ている。今まで後にも先にもあんなに美味しいバナナを食べたことがない。残念ながら何という名前のバナナは今となっては分からない。
こうしてマーケットや町を散策していたら、3人組の少年に話し掛けられた。全然客引きとか、そういったオーラはなく、ただ興味本位で話しかけてくれたようだった。英語は単語が少し通じる程度だったので、身振り手振りでおどけてみせたり、彼らの話す言葉を真似して話してみたりして笑い合っていた。すると、3人組の中でも、しっかりした感じの少年が、何となくだが「これから自分の家で食事に招待するので来ませんか?」と言っているのが分かった。僕たちは、この町では人を疑う必要もないと感じていたので、喜んで彼について行くことにした。
(つづく、次回は8/8木曜日)※2日に1回くらい更新してます。
(前後の話と第一話)
※この物語は僕の過去の記憶に基づくものの、都市伝説的な話を織り交ぜたフィクションです。
合わせて、僕のいまを綴る「偶然日記」もよかったら。「雄手舟瑞物語」と交互に掲載しています。
こんにちは