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【雄手舟瑞物語#27-インド編】寝台列車旅30時間、ムンバイからワラナシへ(8/15-17)

<前回までのあらすじ>
僕は、デリーで日本から来た3人組のバックパッカーのトラ、チカブン、カトミと偶然出会った。色々あって、一緒に皆既日食を見に行くことになった。僕たちは無事にインド西部の町ブジで神秘的な体験をすることができ、今はムンバイにいる。

この地から僕たちはカトミとトラ、チカブンと僕の2組に分かれて旅をすることに決めた。カトミとトラはインド中部を主に周り、僕らはワラナシからネパールを目指す。2泊3日、4人旅の最後の時間をムンバイで過ごした。今日は出発の日。

<今回のはなし>
昨日、チカブンと僕はワラナシ行の寝台列車のチケットを買った。(一回パスポートを持って行き忘れて買えなかったけど)今夜24時過ぎにターミナル駅発だった。僕らは、8:25発でプネーに向かるカトミとトラを見送り、自分たちはもう一泊ホテルを延長して、出発前まで部屋で体力を温存することにした。

ブジからムンバイまで15時間の列車旅から中2日、今度はワラナシまで30時間の旅である。インドは広い。でも、不思議なヒッピーでアーティストのチカブンとの二人旅は楽しみだった。

僕らがプラットフォームでしばらく待っていると、いかつい真っ黒な寝台列車が入線してきた。乗り込み、自分たちの席に向かう。寝台車両はボックス部屋のようになっていて、ベンチ椅子が2脚、向かい合わせになっている。それぞれの壁には、二脚ずつベンチが折りたたまれていて、寝るときにはそれをカチャッと広げる仕様になっているようだ。要は3段ベッドになる。ベッドの幅はシングルの7割といったところで狭い。さらにベッドが硬い。幸い乗客が少なかったので、車内は静かだ。

僕たちはさっそくベッドを広げた。チカブンが上、僕が真ん中。僕はバックパックを枕代わりにした。とりあえず夜も遅いし、僕らは寝ることにした。と言っても、このベッドの硬さに中々慣れない。

僕はこんな時のために持ってきた『ノルウェーの森』をバッグから取り出して読み始めた。旅ではこういう時間も求めていたのだが、初めてゆっくり読書をしている。そして、この状況のおかげで没入感が増し、そのうち僕は眠りに落ちていった。

まだ5時間も寝てないのに、朝6時半頃には明るさで目が覚める。やることが全然ない。ボーッと外を眺めていたら、列車が駅に停車した。すると、チカブンがベッドの梯子をつたって降りてきて、「何か買ってくる」と外に行ってしまった。

この列車は鈍行でもあったし、一つ一つの駅の停車時間が長く、駅弁スタイルのように駅に着くとホームにバナナやコーヒーの売り子がいたり、発車するまでの間、車内に乗り込み車内販売を行っていた。

チカブンは、バナナと甘いお菓子、スプライトとコーヒーを買ってきてくれた。「スプライトとコーヒー、どっちがいい?」僕はこの旅でコーヒーの美味しさに目覚めたものの、まだコーヒーよりコーヒー牛乳の精神年齢だったので、スプライトにした。「まだ子どもだねー」とイジってくる。

目は覚めたが、やることがない。二人はそれぞれベッドでボーッと過ごしている。チカブンはMDか何か聞いているっぽい。僕は村上春樹の続きを読む。全然時間がたたないので、また寝る。を繰り返す。やっと昼を過ぎた。残り18時間。

「お腹空かない?」と、今度は僕が聞いた。「うん、そうだね。今度の役でサンドイッチ的なの売ってたら買おうよ。」とチカブンがリードしてくれる。「サンドイッチいいね。今度は俺が買ってくるよ。」と伝えるも、次の駅では結局車内まで売りに来た女の子からカレー味のサンドイッチとコーヒーと今度はペプシを買ったので、僕の出る幕は来なかった。

ちょっと座席を元に戻して、普通に座っていたものの1時間くらい気分転換を終えると、またベッド状にして、また読んで、寝る、を繰り返す。

外の景色については、驚くほど何も覚えていない。ただただ30時間を耐え忍んだということと、「チカブンがこの上にいるんだなぁ」と頼もしさとちょっとの好意が混じった気持ちで想っていたことだけは覚えている。

そして夕食の時間。今度はサモサにしよう、ということで、またもやチカブンが買いに行ってくれた。本当に頼りになる。チャチャチャーっと身軽に行ってしまうのだ。

そして8月16日夜8時頃。本も読み終わってしまい暇だった。本当にやることがない。僕は、チカブンと交換日記みたいなことをしようと思いついた。無印のノートにメッセージを書いて上にいるチカブンにボールペンと一緒に渡した。

僕 :なにしてんの?
チカ:うとうとしてた
僕 :やっぱり4時に着くらしいよ。チェックインできるまで暇だね
チカ:そうだね。すぐ泊めてくれるとこないのか。24時間受付してるようなとこ。
僕 :あると思うけど、着いてから考えるか。結局。
チカ:ワラナシの駅からガンジス川って近いの?泊まるところとかも。
僕 :川まで歩いて10分くらいのところまで駅からリキシャ―行く予定。
チカ:そんな時間にチェックインしたら、それも一泊になっちゃう?
僕 :荷物だけなら置けると思うけど、チェックインだと怪しいよね。『歩き方』にはチェックイン12時って書いてあるし。
チカ:じゃー昼の12時まで時間つぶさないとダメっていうコトだよね…長いね…(何か猫みたいな絵)
僕 :?何コレ?
チカ:グレイトフルデッドのデッドベアー

高校生の時に組んだバンドで、Kula Shakerのコピーをしていたので、グレイトフルデッドの名前と雰囲気は知っていたが本家に触れる機会がなかった。ドレッドヘアのヒッピー姉、ロゴが描けるなんて流石です。

この後、僕らは昔懐かしい8×8の○×ゲームをノートに書いたりして時間を過ごした。それでもまた飽きては、ボーとして、寝る、繰り返した。

8月17日午前4時。ついに30時間かけてワラナシ駅に着く、遠かった。ワラナシは一大観光スポットなので『歩き方』もしっかり案内が出ている。朝一番にも関わらずリキシャ―は働いている。町の中心まで50円。二人はリキシャ―で向かった。

ワラナシの朝は早かった。この時間、至る所に小さな赤や金色の寺院があり、あちらこちらからお経が聞こえたり、スピーカーから流れている。ブジでは皆既日食の自然の神秘を体験したが、ここでは信仰の神秘を感じる。

photo(cover) by Meredith P.

(つづく、次回は8/18)※2日に1回くらい更新してます。
(前後の話と第一話)

※この物語は僕の過去の記憶に基づくものの、都市伝説的な話を織り交ぜたフィクションです。

合わせて、僕のいまを綴る「C-SCRAP(旧偶然日記)」もよかったら。「雄手舟瑞物語」と交互に掲載しています。


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