【雄手舟瑞物語#25-インド編】20世紀最後の皆既日食を見に行く(後編)(1999/8/11)
世界中から集まった僕たち13人のバックパッカーは皆既日食を見るため、インド西部の町ブジから車で一時間弱かけて砂漠に到着した。
時間は昼過ぎ。砂漠が8割、サバンナっぽい草原が2割。実は今日の天気は曇り。時々太陽が覗く。そんな曇り空の下、タクシーからスピーカーなどの音響機材を下ろす。日本人以外のメンバーが数人で手早く設営する。30分もかからない。僕たちは、ヒッピーな音楽を聞きながら、ビールを飲んだり、踊ったりしながら、ゆったりとその時を待った。
午後3時。皆既日食が始まる時間。
「晴れますように」という祈りが届いたのか、徐々に雲が薄くなってきた。その頃には、自分たちの他にも見物客が集まってきていた。地元かどうかは分からないがインド人たちが楽しくおしゃべりをしながら空を見ている。後ろにはマイクロバス3台。ゲストハウスのスタッフは、この皆既日食への興奮を表に出していなかったが、やっぱりどの国でも一緒だ。メディアで報道されなくても、祭りを嗅ぎつけてやって来る人が何割かいるんだと思った。
薄い雲は掛かったまま。しかし、そのおかげで太陽の光は抑えられ太陽の形がくっきりと見えた。まだ丸い。僕たちは音楽のボリュームを落とす。
地べたに座り、言葉少なにボーッと空を眺めている。
30分くらい経っただろうか太陽が欠けてきたのが分かる。その頃、誰かが音楽を止めた。動かす身体と風の音しか聞こえない。
夏の夕焼けを眺めている時のように一瞬で時間が過ぎていく。
午後4時。日が落ちてきた。空気が変化した。
「世界が終わる」
そう感じた。
午後4時25分。異様な雰囲気。だがまだ光はある。
午後4時28分。突然だった。どこからともなく野生の馬が3頭、いななきながら走り現れた。そのまま僕たちの前を横切り走り去る。さらに同時に、大量の鳥たちが空から逃げるかのように、ブワッと飛び立ち消えて行く。
動物たちが消えた。
次の瞬間。
太陽が自分自身を飲み込む
光が消え、世界は終わった。
死
僕は
つぶった目を恐る恐る
ひらく…
世界は
まだ
在った。
ただ、
知ってる世界とはどこかがちがう。
暗くて静かだ
死の世界?
いや
僕は生きている、ただ
その世界も目の前に在る
いま見ている世界は何なのか
(4分33秒)
突然、
生命が甦る音がした
世界は、再生した
いななく野生の馬から始まった世界の終わりと再生の物語
不思議な体験だった
僕たちバックパッカーたち13人は、またタクシー2台でブジのゲストハウスに戻った。太陽が一回死んで、再生したときにはより強い光を放ったかのように、世界の輪廻を共に体験した者同士、より太い絆で結ばれた気がした。あれから皆ずっと高揚している。
今夜、半分以上のメンバーは宿を発つと言う。僕は余韻をもっと一緒に味わいたいと思ったが、彼らはもう次に向かっていた。一人旅をしていた一つ下の女の子もそうだった。僕らは夕食を共にした。リキシャ―が宿の外に着く。
皆が見送りに外に出る。
闇夜の中にはリキシャ―のヘッドライトとゲストハウスの灯り、それとエンジンの音。
土埃舞う真っ暗い街角。僕らは皆で抱き合いながら「また会おう!」と一人ひとりそれぞれに別れを交わした。飛び切りの笑顔で手を振り、彼らは行ってしまった。
あれから20年。顔も名前も覚えていない。でも、確実にあったんだ。だから、あの時の言葉どおり僕たちはきっといつか再会すると僕は思っている。
彼らが去ってしまうと、僕らは取り残されたような寂しさを感じた。でも、僕らも明日には出発だ。次に行く場所は決まってなかったが、とりあえず一旦、ボンベイまで出ることにした。それぞれ行きたい場所がいくつかあって、道中考えようということになった。
20世紀最後の皆既日食を見るという一大イベント。まさに夢のような出来事だった。
photo(cover) by Suhas Dutta
(つづく、次回は8/14)※2日に1回くらい更新してます。
(前後の話と第一話)
※この物語は僕の過去の記憶に基づくものの、都市伝説的な話を織り交ぜたフィクションです。
合わせて、僕のいまを綴る「偶然日記」もよかったら。「雄手舟瑞物語」と交互に掲載しています。
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