【雄手舟瑞物語#11-インド編】旅行4日目、求職活動(1999/7/30)
インド旅行4日目。昨晩ついに僕はボッタクられたことに気づく。30日間ちょっとのインド旅行の最初の3日間で所持金の半分以上を失ってしまった。今僕は、実はボッタクリだったツーリスト・オフィスのバスツアーーバスツアーと言っても参加者は僕一人に運転手のインド人ラジャの二人旅ーに参加している。今日、ツアー先のアーグラからニューデリーに戻ることになっている。
とにもかくにも、僕とラジャはアーグラを出発した。ボッタクリのことを言ったってどうしようもないことは分かっていた。当初想定していた予算からすると10日分の不足。どうすればこの状況を凌げるか車中で考えを巡らせていた。するとラジャが何やらレシートのような紙切れを僕に見せて言う。
「舟瑞、お前のツアーは8月10日まで続くが、俺がお前を連れていってやれるのは今日までだ。この先は、このパスを見せれば電車も乗れるし、ホテルも泊まれる。今日でお別れなのは寂しいけど、お前との旅は楽しかったよ。」
さすがの僕もすぐに分かった。こんな紙切れで電車もホテルも無料になるなんてあり得ない。ホテルの受付で立ち尽くす自分の姿が目に浮かぶ。この瞬間、僕は閃いた。僕はその考えをラジャに伝えた。「こちらこそありがとう。僕もめちゃくちゃく楽しかったよ。だからこそ、今日でお別れなんて何か寂しいね。考えてみたんだけどさ、一つ提案がある。」「なんだ?」とラジャが反応した。
「ラジャも楽しかったと言ってくれたよね?だったらもう少しの間一緒に過ごすために、僕をしばらくラジャたちのツーリスト・オフィスで雇ってくれないか?僕もお金がなくて本当に困っているんだ。」我ながら落ち着いて同情を買うようなことを、よく言えたもんだったと今になって思う。ラジャは「確かにお前は良いやつだし、英語もしゃべれるから役に立つかもしれない。良いんじゃないか。ただ俺一人の判断では決められない。ボスに聞いてみよう。」と、あっさりこの提案に乗ってくれたのだった。
すぐにラジャはボスに電話をかけ、ヒンズー語で会話をしている。若干言い争うような感じだが、アグレッシブに聞こえるだけかもしれないし、会話の内容は僕には分からない。電話を終えるとラジャは言った。
「クビになった。」
えっ、どんな展開・・・。聞くと、「ボスはツアー客を雇うなんて職業倫理に反する。もし、そんなことをするならお前はクビだと言われたが、それでも俺はお前と一緒に働きたいから辞めてやった。」
色々カオスであるが、そこは状況をそのまま飲み込み、「僕のためにすまない。」と謝った。ラジャは「気にするな、兄弟。当てはあるから大丈夫だ。」と言ってくれた。
そして、4時間くらい車を走らせ、僕たちはニューデリーに戻った。たくさんのツーリスト・オフィスや土産物屋、ゲストハウスが立ち並び、人でごった返し、喧騒に包まれている。歩くと現地の子供達が群がってくる。ここが本物のセントラル(市内)だった。4日前に僕が連れて行かれた”セントラル”は一体どこだったのかは未だに分からない。
ラジャは街中で客引きをするインド人やリキシャーのドライバーたちと挨拶を交わしながら、ある一つのツーリスト・オフィスに入っていった。受付にいたじいさんインド人の前を通り過ぎ、奥にいた新しいボス的な人物と話している。しばらくして僕のところに戻ってくると、「良かったな。二人でここで働けることになったぞ。」
僕は何とか食い扶持を確保することができた。そして同時に、10日経ったら逃げ出せば良いと安易に企んでいた。とりあえずラジャは「今日は仕事はいい。俺の家に泊まれ。」と言ってくれ、二人でラジャの家に向かった。その途中、ラジャから「一つだけ約束しろ。」と言われたので、何かと思ったが、「車の中で見せたエッチな雑誌のことは奥さんに絶対に言うなよ。」ということだった。
(前後のエピソードと第一話)
※この物語は僕の過去の記憶に基づくものの、都市伝説的な話を織り交ぜたフィクションです。
合わせて、僕のいまを綴る「偶然日記」もよかったら。「雄手舟瑞物語」と交互に掲載しています。
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