バーにて⑥
「あなたの奥さんってさ、きっと」
「うん」
「すごくしっかりしてて鷹揚で背筋が伸びててハッキリした人なんだろうね」
「ああ、うん、そうだね」
「それじゃ私じゃ、全然ダメだよなあ」
「そういうわけじゃなかったけど」
「何それ奥さんに失礼じゃん」
「誰の味方してんの」
「正義…」
「私だってさ」
「うん?」
「しっかりしてて凛としててかつ余裕のある人間にずっとなりたくてがんばってきたのに」
「知ってるよ」
「全然ダメだ」
「目指したからだよ」
「何を?」
「完璧を」
「誰の話?」
「俺の話」
「俺はさ」
「うん」
「カッコよくて余裕のある大人の男になったら君に言えると思ってた」
「うん」
「でも彼女はダメな俺を全部知っててずっと受け入れてくれてた」
「…うん。大人な人なんだね」
「だから、君もちゃんと大人の男と付き合いなよ」
「道で拾うか」
「大人は道に落ちてないんじゃないか」
「盆栽とか渋いじゃん」
「盆栽は落ちてないだろ」
「生えてたかぁ」
「言語学科とか哲学科とかに告白するとさ」
「うん」
「『好意の定義から確認しましょうか』って言い出す気がしない?」
「専攻関係なくない?君だけじゃない?」
「…なくないもん」
「理学部が言いそうだな」
「理学部が告白される?」
「顔がよければ」
「人生顔かよ」
「金もな」
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