弓道について②

弓を楽しむことをひたすら追求する。的中にとらわれて楽しめなかったら負け。だって楽しいから弓やってるじゃん。」

 どうしてこう思ったかをまとめる。なお、当時ニーチェ入門の本を読んでたので、かなりその本に影響されている。

1.これまでの考え方への疑い

 「絶対中てなきゃならん場面でいつも通りに体を動かしていつも通り中てる(実力を発揮する)ことができる」

 極論、外したら必ず死ぬ場面でも上のことを実現できることを目指していたが、ホントにそんな場面を想像したら、中る気がしない。大学現役バリバリ絶好調の自分だったとしても絶対中っていない。足がくがくで「頼むから中ってくれ」と祈りながら運に頼る自分しか想像できなかった。そして外れてこれまでの全てが否定されて、絶望しながら死ぬと思った。だったら、目指す姿が間違っているのではと思った。辿り着けない目標を設定することは誤っているし、息苦しいだけなのではと思った。

 それはお前が自分の限界を設定しただけだろと思われる人もいるだろう。それか、「そんな状況をこそ、オレは待っていた!」と燃える人もいるかもしれない。だが、自分は今までそれに近い状況(この日のこの1本のためにとやってきた状況)で中てることは出来なかった

2.正射正中について

 ちょっと話を変える。正射正中(必中でも何でもいい)という言葉がある。正しく引いたなら、自然と矢は的に中る。過程が正しいならば、結果的に中る。外れたら正射ではない。弓道の世界において正射正中を目指すことはいいことだ。少なくとも、悪いと言う人はいない。弓道における万人の普遍的な目標だと言える。しかし、その正射を語れる人はいるだろうか。正射のディテール(三重十文字とか)を語ることはできるが、「正義」とはなにか語ることが出来ないように、弓聖だろうが「正射」を語ることはできない。正射の答えはない。

 そして、一般的な弓道観(武道全般)において、「ゴールに到達することは決してないが、たとえ苦しくても死ぬまでゴールに向かって道を進み続けること」が正しい姿勢、美しい武道家のあり方との考えがある(前回のnote参照)。しかし、答えがない問題に対して死ぬまで演算し続けることが正しいのか?疑問を持った。

3.中て射・正射について

 また、弓道における悪、「中て射」について考える。中て射とは、「目指すべき正射を蔑ろにして、的中のみにとらわれた(一般的な弓道家にとっては)浅ましい姿勢を揶揄する言葉」だと私は思う。だから正射を目指す人にとって中て射は許せない。しかし、正射に到達することが出来る人はいない。

 正射正中と中て射について考えてみて、それぞれが両極に位置する考え方と思われがちだが、こう考えられる。

・中て射:的に中れば過程はどうでもいい

・正射正中:過程を正しく行って中てる

 つまり、どちらにおいても結局目指しているのは的中ということにある点で、両方とも的中至上主義である。

 それでは、的中とは何か。近的においては、28m先の直径36cmの中に先が尖った羽のついた棒が刺さると1ポイント。中心から37cmの場所に刺さると0ポイント。35cmの場所に刺さると1ポイント。ポイントが多い方が優れている(とみなされる)。それが的中。それだけ。そう考えると、なんかおかしくて下らない感じがしないだろうか。そんなどこの誰かが決めたかもわからない条件に全てをかける価値があるのか。

4.楽しいを追求する

 だから的中にそんな価値はないのではないか。35cmと37cmに違いがないとするならば、どちらが優れているも何もない。弓道家が追い求めるべき正射も絶対に辿り着けない幻。ならば、何を追い求めればいいのか。

 それが弓の楽しさではないかと思う。弓は楽しいものだ。私は静かな環境で誰にも邪魔されず、一人で黙々と弓を引くことが一番好きだ。一人で引いていると、他人より上手いとか、中るとか、人と比べなくてよい。ただ夢中に弓を引く。そんな時は楽しい。上手く引けなくても、壁にぶつかっても夢中になっている時間が楽しい。そんな心境になることがある。

 だから、的中という価値観にとらわれない。ボツも羽分けも皆中も100射100中も全ては同じ次元でしかない。的中にとらわれることは苦しい。正射もない。だから楽しむ。練習も試合も楽しむ。迷うこと、壁にぶつかることも楽しむ。それらひっくるめて弓を楽しむこと。楽しめなかったら的中という結果にとらわれたということ。

弓を楽しむことをひたすら追求する。的中にとらわれて楽しめなかったら負け。だって楽しいから弓やってるじゃん。」

 という風に思い弓を引いているのだが、やはり中ったら安堵するし、上手くいかなかったら焦る。的中至上主義は根深い。しかし、中てることに躍起になっている頃よりは一歩進んだ気がしている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?