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認知症介護小説「その人の世界」全34話まとめ

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認知症のある本人から見た世界を描いた、1話ごと読みきりの小説です。
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#もうひとつの世界

認知症介護小説「その人の世界」vol.33『女を女として』

おしゃれのセンスって、どこに出ると思う? こうたずねると、靴って答える人が多いわよね。ま…

阿部敦子
1年前
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認知症介護小説「その人の世界」vol.32『行くわけないだろう』

行くわけないだろう、と僕は言った。 「そんなあ、ぜひにと思ったのに」 新しい若造の秘書が…

阿部敦子
1年前
2

認知症介護小説「その人の世界」vol.30『変わるもの変わらないもの』

家が、見つからなかった。 歩いて歩いて、ずっと歩いて、日が暮れるまで歩いて、でも見つから…

阿部敦子
1年前
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認知症介護小説「その人の世界」vol.29『つくり話』

裕ちゃんこと、石原裕次郎。若い頃はやんちゃなイメージが強くて、それほど好きというわけでは…

阿部敦子
1年前
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認知症介護小説「その人の世界」vol.27『娘はどこにいる』

俺には確か娘がいる。 大事に育てたつもりはあるが、あいつはそんなこと感じちゃいまい。それ…

阿部敦子
1年前
1

認知症介護小説「その人の世界」vol.26『大切な君へ』

大切な君へ。ちょっと真面目な話だよ。 今日の僕も帰り道を間違えなかったみたいだね。メモの…

阿部敦子
1年前
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認知症介護小説「その人の世界」vol.25『私に言わせれば』

【まえがき】 今回の物語は、前回の物語(認知症介護小説「その人の世界」vol.24)と全く同じ場面を描きました。主人公は、前回の主人公の隣の席にいた女性です。ふたつの物語を並べて読み比べると、新しく広がる世界があるでしょうか。 【本文】 こういうのが一番困るのよ。 何をきいても返事をしない。せっかく教えているのに、覚える気があるのかないのか分からない。 私、女学校の頃は学級委員だった。人をとりまとめることが多く、部品工場に勤めていた時はパートの女性たちのリーダーを任され

認知症介護小説「その人の世界」vol.24『できることもあります』

もうどこにも行きたくない。誰にも会いたくない。 私には馴染みの集まりがあった。この地域に…

阿部敦子
1年前
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認知症介護小説「その人の世界」vol.23『わたし、味わっている』

【まえがき】 阿部さま お世話になります。世の中誤解があるのですが、胃ろうなど経管栄養の…

阿部敦子
1年前
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認知症介護小説「その人の世界」vol.22『味がせえへん』

なんやこれ。ただのお湯やないの。 「ちょっと、ちょっと」 私はエプロンをつけたお姉ちゃん…

阿部敦子
1年前
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認知症介護小説「その人の世界」vol.21『心配なんです』

もうあれから3日が過ぎた。いったんここで宿を取り、翌日からヨーロッパへ骨董品の買いつけに…

阿部敦子
1年前
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認知症介護小説「その人の世界」vol.20『私とどういうご関係』

今の時代だとペンションていうのかしら、こういうの。 要するにお泊りする所なのよね。お部屋…

阿部敦子
1年前
3

認知症介護小説「その人の世界」vol.19『あなた、何がしたいの』

物干し竿みたいな棒が2本、横に並んでいる。腰くらいの高さのそれは、どうやら伝って歩くため…

阿部敦子
1年前
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認知症介護小説「その人の世界」vol.18『私は邪魔なのか』

朝の8時はパトロールの時間だ。 交番の仕事を定年で辞めてから、私はそれまで副会長として携わってきた町内会の会長を務めることになった。以来、一日も欠かさなかったのが朝のパトロールだ。 子どもは社会の宝、というのが私の父親の口ぐせだった。その言葉通り、父親は私だけでなく近所の子どもたちの面倒もよく見た。遊び方だけでなく社会のルールも分かりやすく教えてくれる。そこには甘さと厳しさが共存しており、またユーモアもあった。 私は父親のような快活な面を持ち合わせてはいないが、子どもは