認知症介護小説「その人の世界」vol.27『娘はどこにいる』
俺には確か娘がいる。
大事に育てたつもりはあるが、あいつはそんなこと感じちゃいまい。それが証拠に、今はどこで何をしているか分からない。心配したところでどうせあいつは戻らないだろうし、俺の顔なんか見たくもないと言うかもしれない。
言い訳するつもりもない。俺は代々受け継がれてきた酒屋の歴史を守らなければならなかったし、商売の厳しさは言葉より背中で教えてきた。あいつが生意気なことを言えば時に殴ることもあった。殴られて分からないことは、言って聞かせたところで分からない。なぜ殴られ