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涙を流して心を浄化する ~HKT48・最上奈那華『悲しみの浄化装置』~
HKT加入直後の最上奈那華に提供されたソロ曲。
おそらく、48G史上最速のソロ曲デビューになるのでは?
もともと加入前から芸能活動は行っていて、歌も上手いですから、即戦力としての期待が大きかったということなのでしょう。
この曲、曲名から受ける印象とは違って、ポップなメロディの明るい曲になっている。
歌い出しは、
そんなに凹(へこ)んでちゃ 君のことが心配だよ
生きてればいろいろとあるよね 周期的にやって来るんだ
理由はわからない ねえどういうことがあったの?
大丈夫なふりなんかせずに とことん落ち込みなよ
となっていて、つらいことがあったのなら無理して強がらずに、落ち込むときには落ち込んだほうがかえって気持ちは楽になるよと言っている。
つづくBメロの歌詞には、
君が思うより 君は弱くはない
というフレーズがあるのですけれども、「君が思うより君は強い」ではなくて「君が思うより君は弱くはない」なのですよね。
前者であれば「鼓舞」の言葉になるし、後者であれば「慰撫」の言葉になる。
この曲は応援ソングではあるけれども、その底流には「慰撫」の心、つまり、いたわりの気持ちが流れているのですよね。
2番Aメロの歌詞には、
そんなに頑張って 我慢してちゃ壊れちゃうよ
適当にギブアップしながら 楽な方を選ぶべきだろう
真面目にやってたら そんな人生 疲れて来る
肩の力 少しだけ抜いて 自分のペースで行こう
とあり、そんなに頑張らずに適当に力を抜いたほうがいいんじゃないのと言っている。
聴いていると、なんとなく気持ちが楽になってきますよね。
もちろん、日頃何ごとにも真剣に取り組み、頑張りすぎるくらいに頑張っている人に向けたものであればこそ意味を持つ言葉ではあるのですけれども……。
ところで、2サビに、
できないことがいっぱいあるってこと
気づいてしまったのはいつか
大人になると
泣くことはサーモスタット
というフレーズがあるのですけれども、どこかで似たようなフレースがあったような……。
思い返してみたら、NGT48・Signalが歌う『情熱の電源』の中にも、「忘却は思い出のサーモスタット」というフレースがありましたね。
サーモスタットというのは温度調節装置のこと。
どちらの曲も、感情や気持ちをコントロールするための手段を、このサーモスタットで喩えている。
この2曲、大人になっていく過程における心のありようを描いているという意味では共通している。
さて、サビの歌詞にある
大人の涙は
悲しみの浄化装置さ
ですけれども、涙を流すことがストレス解消になるという話は、よく聞く話ではありますよね。
感情を解放して、心の内に鬱積していたものを涙と一緒に洗い流してしまえば、新たな気持ちでまた歩き出していける。
そのことをシャレた言い回しにしてみたといったところでしょうか。
涙を流して心にたまった澱を洗い流すという意味では、「浄化装置」というのは確かに言いえて妙ではありますね。
引用:秋元康 作詞, HKT48・最上奈那華 「悲しみの浄化装置」(2022年)