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忘れかけていた情熱よ、もう一度 ~NGT48・Signal『情熱の電源』~

川越紗彩(ギター)、三村妃乃(ボーカル)、古館葵(キーボード)の3人からなるユニット・Signalのオリジナル楽曲。
三村妃乃のセリフとスケール感のある爽やかなメロディが特徴的な良い曲。

冒頭、Aメロの歌詞には、

空き地の隅にずっと放置されてた
型の古い誰かの冷蔵庫には
何が入っていたのだろう

とありますけれども、「冷蔵庫」というのはもちろん比喩であって、心の奥底にある志のことを指している。
子供のころ抱いていたたくさんの夢や希望は、志として胸の奥にしまっておけば、いつまでも変わらずにそこにあるはず。
そして、それらはいつでも取り出せるものだと思っていた。
その胸の奥底を、食べ物を新鮮なまま保存できる冷蔵庫になぞらえているわけです。

けれども、いつまでも変わらずにそこにあるはずだと思っていたものが、大人になってふと覗いてみたら、それらは腐り果てていた……。
いつかかなえようとしていた夢や希望が、いつのまにか色あせてしまっていたわけです。
それを示しているのが、続く歌詞の

どんな夢もいつか腐ってしまう
だからこんな場所に廃棄したのか?
通り過ぎた日々よ

ということになるわけです。

新鮮な食材も、冷蔵庫にしまい込んだままにしていれば腐っていくように、夢や希望も胸の奥底にしまい込んだままにしていると劣化していく(色あせていく)。
永遠に新鮮なままそこに存在し続けているわけではない。
子供のころに抱いていた夢や希望も、いつしか大人になるにつれて、忘れていってしまう。

とはいえ、完全に忘れ去っているわけではなくて、心のどこかで常に引っかかっていたのでしょう。

この歳になって なぜか知りたくなったんだ
冷蔵庫の中に残されてたもの
僕はこっそりと開けてみた

自分は、いったいどんな夢を抱き、何をやり残してきたのだろうか?
あるとき、ふと心の奥底を覗いてみたわけです。
すると、

錆びついた棚には ただのゴミしかなくて
あるいは今 僕は見えてないのか?

とあるように、きらびやか夢や希望を期待していたのに、それらは腐り果ててゴミのようになっていた……。

この歌詞の直前に、

忘却は思い出のサーモスタット

というフレーズがあるのですけれども、これも比喩なのでしょう。
サーモスタットというのは、簡単に言えば、温度調節装置のこと。
感情や気持ちをコントロールするための手段を、このサーモスタットになぞらえているのでしょう。
つまり、忘れていることが気持ちを鎮めるための手段になっていた、ということでしょうかね。
思い出してしまうと、自分は何をやっているのだということになってしまいますから。

そして、サビの歌詞で、

僕は 今誓った 胸の奥の大事なもの
情熱の電源を落としはしない
いつ扉 開けても ずっと変わることなく
憧れた生き方はあの頃のまま

とありますように、志を保持し続けるためには情熱が必要で、その情熱を冷蔵庫の電源に喩えているわけです。
冷蔵庫の中に入れた物を腐らせないようにするためには、電源を落とさないことですから。

歌詞のラストには、

あの青春のエネルギー
ああ もう一度

とあって、情熱を取り戻してもう一度動き出そうと言っている。

青春時代が終わりかけている、あるいは終わったばかりの年齢層の人たち、ひょっとすると青春真っただ中の人たちにも当てはまるのかもしれませんけれども、そういった人たちには身につまされるような内容の曲なのではありませんかね。

この曲、歌詞の1/3くらいが三村妃乃のセリフで構成されているユニークな曲なのですよね。
1サビ後のセリフとラスサビ後のセリフはまったく同一なのですけれども、実は本人曰く、表現の仕方を微妙に変えているのだとか。
1サビ後は、いつしか情熱を失っていたことに気づいて愕然とする気持ちを表していて、ラスサビ後は、もう一度情熱を取り戻して頑張るぞという明るい気持ちを表している。
少し気を付けて聴いてみれば、確かにその違いが分かる。
さすがは「ミュージカル曲の三村妃乃」ですよね。

引用:秋元康 作詞, NGT48・Signal 「情熱の電源」 (2021年)


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