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立ち上がって前へ進め! ~AKB48『Stand up』~

AKB48・チームK「最終ベルが鳴る」公演の構成曲です。
恋愛系の曲が多いこの公演の中にあって、異彩を放っている曲と言って良いのかもしれません。
歌詞を読んでみると、まるで今現在のウクライナやパレスチナの状況を歌ったような曲になっているのですよね。
2008年に発表された曲で、特定の紛争とか戦争とかをモチーフにしているわけではないのでしょうけれども、詞の内容から言って、リアルに今日的な意味のある曲なのではないでしょうか。

曲の構成はやや変則的で、曲調はラテンのフォルクローレを想起させるものがありますね。

頭サビ

さあ 立ち上がれ!
絶望のその谷底から
さあ 立ち上がれ!
傷ついた体を起こせよ!

サビ始まりの曲になっていて、「絶望のどん底から立ち上がれ!」と、冒頭からかなり強いメッセージが発せられています。
一体何があったのか、どういった状況なのか……。

1番Aメロ

I will
故郷のすべてが焼かれ 逃げ惑っても
I will
人々が赤い血流し 泣き叫んでも
I will
ミサイルが降り注ぎ 空を覆っても
I will
ソルジャーが国境越えてやって来ても

シチュエーションとしては、戦時下の状況を描いているのでしょう。
しかも、理不尽にも他国から侵略されて、故郷の人々も土地も暴力でもって蹂躙されるという状況。
あたかも、現今のウクライナやパレスチナのような……。
そんな絶望的な状況になったとしても、「I will」と、強い意志を示そうとしているわけです。

1番Bメロ

Stand up!
この国を捨てない
Stand up!
僕たちは生きる
Stand up!
真実は正義さ
Stand up!
僕たちは死なない

Aメロの歌詞を受けて、では一体いかなる意志を示そうというのか。
たとえ他国による理不尽な侵略があったとしても、故郷であるこの国を決して捨てることはないし、どんな絶望的な状況になろうとも、ここに留まって生き抜いてやるとでもいったところなのでしょう。
「真実は正義さ」というのは、真実だけが正義を導くとでもいった意味でしょうかね。

「正義」は立場によって変わるとよく言われます。
「正義」も人が作り出した概念ですから、何が「正義」であるかは時代や場所や状況や立場や人によって、実はいかようにも変わりうる、ある意味危ういものなのですよね。
普遍的な「正義」なんてものは存在しないわけです。
現に、国同士のそれぞれの「正義」のぶつかり合いが、現代においては、大量殺戮を生み出してしまう総力戦の戦争へと行きついてしまっているわけですし、宗教間の対立にしても、それぞれがそれぞれの「正義」を掲げて、テロや紛争という形で殺戮の応酬を繰り返しているわけですから。

そうなると、一体何が「正義」なのかということになってしまう。
そこで、ここでは「真実」が「正義」を担保すると言っているわけです。
ここで起きている本当の出来事が、何が「正義」になるのかを教えてくれるはずだということでしょうかね。

1サビ

さあ 歩き出せ!
悲しみと涙の跡から
さあ 歩き出せ!
もう一度 姿を見せろよ

絶望のどん底から立ち上がり歩き出せと鼓舞していますね。
「もう一度 姿を見せろよ」というのは、己の意志をはっきりと示せということではありませんかね。

2番Aメロ

家族や友を守るために
自分が前に進むべきだ
煙と土埃の中で
道は明日へ続いている
見たことない旗が廃墟で
風に吹かれて翻(ひるがえ)っても
Don't cry!
Don't fly!
Don't lie!
I try!
僕の祈りが いつか届くまで

誰かが何かをしてくれるのを待つのではなく、家族や友人たちを守るために自分が立ち上がって前へ進まなければならない。
どんなに絶望的な状況にあっても、日々の生活は続いていくわけですから。

英語で記されている部分にある「fly」という単語には「逃げる」という意味がありますから、ここのくだりを訳しますと、「泣くな! 逃げるな! 嘘をつくな! 僕は頑張ってみせるぞ!」とでもなるのでしょう。
要は、決して後ろ向きな姿勢になどなりやしないぞという強い決意を示しているわけです。

「見たことない旗が廃墟で 風に吹かれて翻(ひるがえ)っても」というのは、まぎれもなく他国に侵略され征服されてしまった状況を指していて、それは考えたくもないおぞましい状況ですよね。
それでも、元の平和な暮らしが戻ってくるまで、決して心は屈しないということを言っているのでしょう。

Cメロ

The lost world
I should go!
The lost world
I have to go!
The lost world
I wanna go!
The lost world

「The lost world」すなわち「失われた世界」というのは、これまでこの土地で過ごしてきた平和な暮らしの事を指しているのでしょう。
その平和な暮らしを取り戻すために、「私は行くべきだ、行かなければならない、いや行きたいのだ」ということですから、義務感や使命感から行くのではなく、内発的な動機に基づいて、自分自身が心の底から行きたいと思っているから行くのだというわけです。
なお、ここで言っている「行く」というのは、立ち上がって前へ向かって歩き出すということを意味しているのでしょう。

2サビ

さあ 立ち上がれ!
争いや憎しみの中から
さあ 歩き出せ!
何度でも 太陽は昇る
さあ 立ち上がれ!
新しい光 浴びながら
さあ 歩き出せ!
逆境に負けたりはしない

これでもかというほどの不屈の精神の発露ですよね。
どれほどの苦難に見舞われようとも、どんな逆境に置かれようとも、決して絶望したりなどしない。
苦しみや悲しみを乗り越えて行けば、希望は必ず訪れる。
折れない心をもって立ち上がり、そして前へ向かって歩き出そう。

こんなふうに強くいられる人など、なかなかいないのではありませんかねぇ……。
もしかしたら、絶望的な状況も行くところまで行ってしまうと、生き抜くためには、こうあるしかないのかもしれませんね。
そういえば、1番Bメロに「僕たちは生きる …… 僕たちは死なない」、そのために立ち上がるのだとありましたね。

2番Bメロ

Stand up!
世界を愛してる
Stand up!
今 何ができるか?
Stand up!
世界を愛してる
Stand up!
笑顔が戻るまで

ここで言っている「世界」というのは、ここまで見てきた限りでは、第一義的には自分たちが平和に暮らしていた土地であり国のことを指しているのでしょうけれども、それだけにとどまらず、もっと広く外の世界をも含む世界全体のことも指していると受け止めることができるのではないでしょうか。
国境だの民族や文化の違いだのを超えて、すべての人々が平和な暮らしを送ることができないものだろうかということですよね。
そのためには、何ができるのだろうかと自問しているわけです。

大サビは、頭サビと1サビの組み合わせになっていますね。
立ち上がって歩き出せ!
そして、己の意志を示せ!
と、強いメッセージを発している。

この曲の歌詞では、シチュエーションとして「戦争」状態を想定していますけれども、必ずしも「戦争」に限定されるわけではなく、例えば、9.11同時多発テロのような未曽有の悲惨な事件や、この曲が作られた数年後に起きた東日本大震災のような大きな自然災害などにも当てはまるわけです。
いずれも、人々はとてつもなく絶望的な状況に置かれてしまいましたよね。
そんな状況になってしまったとしても、決して挫けることなく困難に立ち向かっていこうではないかと、力強いメッセージを送ってくれているのではありませんかね、この曲は。

引用:秋元康 作詞, AKB48 「Stand up」(2008年)


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