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さあ、決断の時だ! ~AKB48『最終ベルが鳴る』~

この曲は、AKB48・チームK「最終ベルが鳴る」公演の構成曲です。
セットリストの2曲目に配されていて、公演の前半を盛り上げてくれるロック調の疾走感のある曲です。

1番Aメロ

夜更けの駅のホームで
片道切符握り
列車に乗り込む

単に字面じづらだけ見ていると、夜中に電車に乗ろうとしているというだけのようにも受け取れますけれども、後に続くストーリーの展開がわかってくると、少々違った光景として見えてくるのではないでしょうか。

「夜更けの駅」というのが、緊張感や不安感、心細さを象徴していて、「片道切符握り」というのが、強い決意を表していると考えることができますよね。

通学なのか通勤なのかわかりませんけれども、いつも使っている見慣れた駅のホームも、人もまばらな、あるいは誰も人のいない夜更けともなると、ずいぶんと雰囲気が違ってくるものです。
そこへ、ある秘めた決意をもってやって来たわけですから、この主人公の目に映るのは、もはやいつもの見慣れた駅のホームではないのですよね。

1番A'メロ

生まれた街の灯りが
届かない先には
何が待つのだろう

ここの歌詞には、この主人公の複雑な心境が滲み出ているのではないでしょうか。

「生まれた街の灯りが届かない先」というのは、もちろん距離的な遠さも表しているのでしょうけれども、心理的な遠さをも表しているのでしょう。
そこは、未だ見ぬ新しい世界であり、これから自分が生きていこうとしている世界なのですよね。

「何が待つのだろう」というフレーズには、自分の可能性を試すというワクワクした気持ちと、自分がどんなふうに変わっていくのだろうかという期待感が含まれている一方で、一体どんな困難や苦難が待ち受けているのだろうかという恐れと、自分は本当にやっていけるのだろうかという不安な気持ちも含まれているわけです。

1番Bメロ

夢のレール
チャンスは一度さ
希望のダイス 今 振ろう

今まさに乗り込もうとしている電車の行く先に続いているレールは、この主人公にとっては夢に向かって進む道であるわけです。
「チャンスは一度さ」というフレーズに、人生における重大な岐路に立たされていることが表されていますよね。

ところで、ダイスを振ろうと言うのですから、決心が付きかねているようにも受け取れます。
けれども、そのダイスは「希望のダイス」なのですよね。
この主人公の気持ちとしては、実はもう決心が付いているのではありませんかね。

1サビ

最終ベルが鳴る (ふいに)
降りるならば 今だ
最終ベルが鳴る (ついに)
心の奥の声を聴け!
選ぶんだ (道を)
青春の行き先
迷いの中の光
答えを出すんだ ここで

いよいよ最終ベルが鳴って、電車に乗り込むのか、それとも電車から降りるのか……。
電車に乗るということは、新しい世界に歩み出していくことを意味し、電車から降りるということは、元居た場所に引き返すということを意味している。
どちらの道を選ぶのか、あらためて自分自身に問い掛けているわけです。

とは言いながら、本当はもうとっくに心は決まっている。
それこそダイスを振ってどんな目が出ようが、その決心は変わらないのですよね。
ここでの逡巡は、言うなれば、ひとつの儀式のようなものでしょう。
すべての迷いを吹っ切るための。

「青春の行き先」というのは、自分の青春を懸けるべき対象のことを指しているのでしょう。
ここに及んで、自分はこれに青春を懸けるのだという決意を固めようとしているわけです。

2番Aメロ

何度も読み返したわ
トランクの中隠した
オーディションの報(しら)せ

この主人公は、何かのオーディションに応募して、書類審査を通過したのでしょう。
そして、何らかのパフォーマンスの審査と面接を受けるために、おそらくは東京でしょうかね、審査会場に向かうために電車に乗り込もうとしているわけです。

「何度も読み返したわ」というフレーズからは、この主人公の驚きと喜びの気持ちが溢れていますよね。
何を繰り返し読み返したのかと言うと、もちろん書類審査に合格して、面接を受けに来てくださいという通知ということになるわけです。

その通知を誰にも知らせることなくトランクの中に隠したのには、相反する2つの理由があったからではありませんかね。
1つは、家族なり友人なり、周りの親しい人たちに告げたときに、期待され励まされるようなことを言われてしまうと、審査を受けに行くのが既成事実化して、後に引けなくなってしまうというのがありますよね。
そしてもう1つは、同じく周りの人たちに告げたときに、将来のことを考えてやめたほうが良いとか、危険な世界なのではないかとか、どうせ受かりっこないからとか、いろいろと反対されるようなことを言われて、なんとなくやめる方向に気持ちが傾いてしまうというのもあり得ますよね。
方向性は真逆ですけれども、どちらも周りの人たちの言葉に引きずられてしまうことになるわけです。
自分にとっては、もしかしたら人生最大の分かれ道になるかもしれないのですから、誰にも知らせなかったのは、誰にも左右されることなく自分の正直な心でちゃんと決めたいということなのではありませんかね。

2番A'メロ

親にも相談できずに
置手紙残して
家を飛び出した

親子であれば、親にどういう話をすればどんな反応が返って来るのかというのは、なんとなく察しが付くものです。
この主人公は、オーディションの話を親にすれば、きっと猛烈に反対されることになるだろうと考えたのでしょう。
反対されても、自分自身が本気であるならば、何としてでも説得すれば良いのですけれども、その自信が持てなかったのでしょうかね。
それどころか、逆に説得されて、心が揺らいでしまうかもしれない。
それが怖かったのではありませんかね。
結局、置手紙だけ残して、何も言わずに家を飛び出したわけです。

家を飛び出すというと、なにやら穏やかならざる感じがしますけれども、今まで過ごしてきた慣れ親しんだ世界から外に飛び出し、決意をもって新たな世界に飛び込んでいく、その第1歩を踏み出したと捉えることもできますよね。

2番Bメロ

夜の空に
見えない星たち
いつかはきっと 輝くだろう

家を飛び出して、駅に向かう道すがらでしょうか。
夜空を見上げてみると、星々がキラキラと輝いている。
けれどもその輝きに隠れて見えない星もあるわけです。
その、今はまだ見えない星を自分自身になぞらえて、いつかはあのキラキラと輝く星にきっとなってみせると決意を固めているのでしょう。
未来への夢と希望に胸を膨らませているといったところでしょうか。
それとともに、そう思うことで自分自身を鼓舞こぶしているというのもあるのかもしれませんね。

2サビ 

未来のベルが鳴る (強く)
立ち止まれば 終わる
未来のベルが鳴る (近く)
中途半端じゃ進めない
決めるんだ (すぐに)
運命の誘いを…
もうすぐ走り出すよ
昨日とは違う自分

「最終ベル」から「未来のベル」への表現の変遷へんせんは、この主人公の逡巡から決意への心の変遷へんせんとシンクロしているのでしょう。
もはや立ち止まることもできなければ、中途半端なことでも済まされない。
覚悟を決めて前へ進むしかない。
未来への期待を胸に、そう決断をしたわけです。

ラスサビは1サビの繰り返しになっています。

AKB48が活動を始めてから3年目に入り、少々弛みが見受けられるようになって、そのことに対して警鐘を鳴らすために秋元Pが新公演の公演名としてこの「最終ベルが鳴る」というタイトルを付けたと言われていますよね。

そのいわくつきの公演名と同名の楽曲がこの曲になるわけですけれども、曲の方も、秋元Pからメンバー達へのメッセージが込められているようにも受け取れます。
この曲に描かれていることは、多かれ少なかれ、メンバー達も実際に経験していることなのですよね。
ですから、人生の重大な岐路に立って、迷いながらも自分自身で決断した、あのときの気持ちを今一度思い出してみなさいということなのではありませんかね。
初心というよりも、それ以前の、決断を下したときの自分の気持ちを裏切るなということを言っているのかもしれません。

引用:秋元康 作詞, AKB48 「最終ベルが鳴る」(2008年)


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