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人生最後の一言に何を言う? ~STU48・岡村梨央『僕は言う』~
この曲は、第6回AKB48グループ歌唱力No.1決定戦の優勝特典として獲得した岡村梨央(STU48)のオリジナルソロ曲です。
STU48の11thシングル「地平線を見ているか?」のカップリング曲にもなっています。
ひとつ前のSTU48のシングル「君は何を後悔するのか?」のカップリング曲には、その岡村梨央ら2.5期生が歌っている「楡の木陰の下で」という曲がありましたけれども、この「僕は言う」は同じ方向性の曲のような気がします。
曲調といい歌詞の内容といい、どちらの曲も繊細で優しさに満ちた良い曲なのではないかと思います。
1番Aメロ
地球にいつの日にか
衝突する惑星は
本当にあるのか?
遠い大昔から
語り継がれたような
そう 予言書のフレーズ
2029年の4月に「アポフィス」という小惑星が地球に最接近すると予想されていて、この小惑星が発見された2004年当初は、1/300の確率で地球に衝突すると言われていました。
結構な確率ですよね……。
その後の観測により、2029年の衝突の可能性はほぼなくなったようですけれども、もし衝突すれば、その大きさからして地球に壊滅的な被害をもたらすことになります。
今回の接近では衝突を免れることができたとしても、小惑星ですから太陽の周りを公転していて周期的に地球に接近することになり、衝突の可能性は続くわけです。
今後も2036年、2068年と、衝突の危機は繰り返されることになり、そういったことを考えると、地球への小惑星の衝突というのは、「本当にあるのか?」どころか、結構リアルな危機と言っても良いのかもしれません。
ちなみに「アポフィス」というのは、古代エジプトの神話に出てくる混乱と暗闇の神「アペプ」からくる名前なのだとか。
災厄をもたらすそんな神には地球に降臨してほしくないものです。
1番A'メロ
夜の空を見上げ
星たちのどれかが
近づいていると 深刻そうに
天文学者が警告する
動画を見たんだ
小惑星「アポフィス」の地球への最接近という話は、昨年秋ごろから結構ネットニュースなどでも出ていて、もしかしたら秋元Pも、そういった話題を小耳にはさんだりとか、あるいはYouTubeに上がっているその手の動画を目にしたりとかしたのかもしれませんね。
唐突ではあるけれども「惑星衝突」というカタストロフィな話を端緒にして恋愛ストーリーを展開するあたりは、いかにも秋元Pらしい手法ではありますよね。
1番Bメロ
今 僕がやり残した
願いは何かと考えた
心を掴まれたように
そして気づいてしまった
そんな、世界の終末を暗示するような「惑星衝突」という結構リアルな話を聞いて、この主人公は考え込んでしまったわけです。
世界が終末を迎える時、自分の人生も終わる。
もしも今その時が訪れたとしたなら、自分は最後に何をしたいだろうか、何かやり残していることはないのだろうかと。
そこで、はたと気づいてしまったわけです。
自分の心の内に潜んでいた、ある思いに……。
1サビ
もしも世界が終わるのならば 僕は言う
「ずっと君のことが好きだった」それだけを…
目を見て言えるかは
そう わからないけど
答えは要らないよ
oh
もしも世界が終わるのならば その前に
後悔だけは残さぬように言いたい
胸の奥 溜まってた 君への片想い(fu-fu-)
この日までの人生 締め括る
たった一言
ひょっとしたら、この主人公である「僕」は、自分自身の「君」への恋心に気づいていなかったのでしょうかね。
好きとか嫌いとか思うよりも前に、一緒にいることがごく自然になってしまっていて、あらためてそんなことに思いを巡らすこともなかったとか……。
けれども、もしも世界が終末を迎え、自分の人生も終わるとなったなら、その最後を締め括るのは、「ずっと君のことが好きだった」という「君」への言葉だということに思い至ったとき、自分の本当の気持ちに気がついたということなのでしょうかね。
「目を見て言えるかは そう わからないけど 答えは要らないよ」というフレーズには、この主人公の繊細さがよく表れていますよね。
今さらあらためて「ずっと君のことが好きだった」などと告げるのは、なんとも照れくさいでしょうからねぇ。
それでも最後には、自分の気持ちをはっきりと言葉にして「君」に届けたいという、そういう思いもあるのでしょう。
2番Aメロ
この部屋にいる時の
二人は何するでもなく
僕は本を読んでいるし
君はソファーの上で
音楽を聴いている
そう そんな生活が楽だ
ここの歌詞だけを見てみると、恋人同士のありふれた風景のようにも思えるのですけれども、1サビの歌詞から察するに、はっきりとした恋人関係ではないのですよね。
ただ、極めて親しい間柄であるということだけはわかります。
ひょっとしたら、幼馴染とかで幼少のころから付き合いがあって、家族に近い関係なのかもしれません。
2番A'メロ
ずっと黙っていても
同じ空気を吸って
同じ時間を共有できたら
それだけで満足していた
素敵な関係だ
何を話すでもなく、ただ一緒に過ごす時間が心地良いという、穏やかで優しい2人の関係性が、よく表されているのではないでしょうか。
2番Bメロ
もう少しで夜(よる)が明ける
君は泊まって行(い)くのかな?
それとも帰るんだろうか?
どっちでも構わないよ
「君は泊まって行(い)くのかな?」というフレーズがありますから、「僕」が住んでいるところに「君」が訪れているのだということがわかります。
「僕」は自分の片思いだと思っているようですけれども、こういった状況を考えると、実は「君」のほうも「僕」に対して思いを寄せているのではないかと思えますよね。
ところで、泊っていくのか帰るのか、「どっちでも構わないよ」と思っているあたりにも、この主人公の繊細さが表れているのではありませんかね。
2サビ
もしも世界が続くのならば 言わないよ
君へのこんな思いは 吐露したりしない
心の中 秘めて
普通に振る舞うよ
気づかれないように…
oh
もしも世界が続くのならば いつまでも
友達のまま 一緒にいられればいいさ
その方が永遠に愛せるって思う(fu- fu-)
明日(あす)からの未来が楽しみだ
今の本音さ
「君」に自分の思いを告げるのは、あくまでも「僕」の人生が終わるときであって、世界も「僕」の人生も、この先まだまだ続くわけですから、このまま心の中に秘めたままにしておくということになるわけです。
つまり、「僕は言う」ならぬ「僕は言わない」ということになりますよね。
思い切って告白してみれば良いではないかとは思うのですけれども、この主人公にしてみれば、現状が一番居心地が良いということなのでしょうかね。
はっきりとした恋人関係ではなく、どこか曖昧な友人関係ではありますけれども……。
おそらくは、ずっと長いこと、気づいたらいつも一緒にいるというような関係だったのでしょう。
あらたまって「君」への思いを告げても、かえってお互いに意識するようになってしまい、ギクシャクしてしまうかもしれません。
今のままなら自然体でいられるから、そのほうが良いということなのでしょう。
言葉にしなければ伝わらないという考え方もあれば、一方で、言葉にせずとも心で通じ合えるという考え方もあるわけで、この歌詞で描かれているストーリーは後者寄りということになるのでしょうかね。
この曲の歌詞で描かれているのは「僕」の心情ばかりで、「君」の心情は描かれていませんよね。
ただ、歌詞に描かれている2人の関係からして、もしかしたら「君」も「僕」と同じような気持ちを抱いているのではありませんかね。
そして、言葉にせずとも、お互いの気持ちはすでにお互いにわかっているのではないでしょうか。
Cメロ
こうして平和な朝が来て
優しい気持ちでいられる日常に
ただ改めて感謝しながら
君のことが愛しいよ
「惑星衝突」などというカタストロフィに見舞われることもなく、平凡だけれども穏やかで平和な日常が続いていることにありがたみを感じつつ、「君」への思いを再確認しているといったところでしょうか。
大サビは1サビの繰り返しになっています。
結局のところ、「僕」は言わないままで終わっている。
思いを伝えるのに勇気が出なかったということではないのでしょう。
実質的には恋人関係になっているわけですし、おそらくお互いの気持ちもわかっている。
つまり、あらたまって言う必要がないということなのではありませんかね。
ただ、人生の終末が訪れたとき、「君」への思いを告げて自分の人生を完結させたいということなのでしょう。
「ずっと君のことが好きだった」という一言で自分の人生を締め括ることにより、「僕」の人生はずっと「君」への愛と共にあったということを示すことができる。
これ以上ない愛の告白ですよね。
人生最後の一言であるというところに、その言葉の重みがあるのではないでしょうか。
引用:秋元康 作詞, STU48・岡村梨央 「僕は言う」(2025年)