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破壊なくして創造なし ~AKB48『スクラップ&ビルド』~

「スクラップ&ビルド」というのは、老朽化したものを取り壊して新しいものに作り替えることを意味する和製英語。
この曲がリリースされた時期を考えると、なかなか意味深なタイトルではありますよね。

この曲は、2012年の秋にリリースされたAKB48の28thシングル『UZA』のカップリング曲で、大島チームKのオリジナル曲になります。
さて、この年に何があったかと言いますと、AKB48が発足当初から目標にしてきた東京ドームでのコンサートが夏に開催され、絶対的センターとしてグループを引っ張ってきた前田敦子が卒業しているのですよね。
そして、大組閣が行われ、チームの大規模な再編成が行われている。
つまり、AKB48がひとつの大きな区切りを迎えて、新たな体制でもって再出発しようとしている時期だったわけです。

楽曲には、それが作られたときの時代背景なども考慮に入れないと、歌詞に込められている真の意味を捉えきれない場合もあるのですけれども、この曲もまさにそういった楽曲のひとつなのではありませんかね。

1番Aメロ

やっと一つになったものは
またいつかバラバラになるよ
組み立てられたその夢に
満足することはない
WOW WOW

諸行無常ですね。
生まれいずるものは、いずれ必ず消えてなくなる。

「やっと一つになったものは またいつかバラバラになるよ」というフレーズには、いくつかの意味が込められているのではありませんかね。
AKBでは2009年に1回目の組閣を行い、それから3年が経ち、ようやくチームとしてなじんできたところで2回目の組閣を行ったわけです。
しかも、グループ間の移籍や兼任も含んだ大がかりなものとして。
チーム4にいたっては、解体の憂き目にまで遭っている。
そういった、チームの組み換えという意味も含まれているでしょうし、グループとしてひとつの大きな目標を達成し、新たな目標を打ち立てて再スタートしなければならないという意味も含まれているのでしょう。

そこには、現状に満足することなく、常に新しいものを求めて前進し続けなければならないという強い意志が示されているのではないでしょうか。

1番A'メロ

せっかく 完成したんだ
大人たちは言うけれど
今のすべてを守ることは
そう 未来捨てることさ

大人たち、とりわけ功成り名を遂げた大人(老人?)たちは、居心地の良い現状にとどまり続けていたいと保守的になり、その現状に固執し変化を忌避きひするようになる。
けれどもそれは、自分の未来の可能性を放棄することでもあるわけです。
個人レベルの話であるならば、それは個人の自由ということになりますけれども、それが集団レベルの話となると、その集団を主導している者たちがそのような姿勢になってしまっては、この先その集団は衰退の一途を辿るだけとなってしまう(今の「日本」という国のように……)。

1番Bメロ

工事現場のフェンスの向こう
新しいこのビルも
やがて朽ちて行くのだろう

高度経済成長期には、未舗装の道路が次々とアスファルトの道に変わっていき、田んぼや畑や雑木林がなくなって小ぎれいな新興住宅地となり、ニュータウンと称して鉄筋コンクリの建物がずらりと並ぶ団地があちこちに造られていきました。
まだまだ牧歌的雰囲気の残る東京の郊外が、短期間のうちに、みるみると近代的な街に変わっていったわけです。
あれから半世紀近く経て、ニュータウンはいつしかさびれて昭和遺産と化している。

若者もいずれ必ず老人になるように、新しいものもいずれ必ず古くなり朽ちていく。
それが時の流れというものなのでしょう。
誰もそれにあらがうことはできない。

1サビ

Baby! スクラップ&ビルドだ!
Baby! 全部 壊そうぜ!
何も規制されずに
やりたいようにやろう!
Baby! スクラップ&ビルドだ!
Baby! もう一度作れ
過去でしかないんだ
改革の鉄球を振り下ろせ!
WOW WOW

新しいものを作り出していくためには、乱暴かもしれませんけれども、今ある古いものをぶち壊していけということですよね。

東京ドームでのコンサートも実現させ、国民的アイドルグループとしてその頂点に立ったこの時期だからこその秋元Pからの警鐘けいしょうのメッセージだったのではありませんかね。
栄光も手にした瞬間からあっという間に過去へと流れ去って行ってしまう。
いつまでもその過去の栄光にすがっていて挑戦することをやめてしまったら、前へ進むことはできない。
停滞、そして衰退への道をたどるしかなくなる。
現に、そうなってしまったような……。

数々のプロジェクトを手掛け、世間に注目される成功事例よりもはるかに多くの失敗を経験してきた秋元Pだけに、もしかしたらこの先の行く末が見えていたのかもしれませんね。

2番Aメロ

確かにいい時代だったんだ
老人は懐かしむけど
今をスタートにする者たちは
思い出じゃ生きられない

過去の栄光に囚われている限り、未来を切り拓いていくことはできない。
栄光を築き上げた者たちは、その栄光にすがり続けたがるかもしれないけれども、これからスタートを切ろうとしている者たちにとっては、その栄光は邪魔でしかない。
なんなら、足を引っ張るだけの存在でしかないかもしれない。
その栄光にもたれかかっていれば楽ができると思ってしまうかもしれないという意味では……。

未来を切り拓いていく力は、思い出という過去の遺産の中ではなく、新たな挑戦の中にこそ宿るものなのではありませんかね。

2番Bメロ

褪せたポスターが剥がれるように
未(いま)だ見ぬ世界が
瓦礫の下 生まれるよ

古いものが崩れ去った後に、新しいものが生まれ出ずる。
「瓦礫」は、まさにそうした古いもの、過去の栄光だとか古い価値観などを象徴しているのでしょう。
それらを押し退けて這い上がることによって、新しい未来が切り拓かれていく。
新陳代謝、世代交代ということでしょうね。
 
2サビ

Baby! 恐れることはない
Baby! 僕らはできるんだ
何かに縋(すが)って生きてくより
その手を離そうか
Baby! 恐れることはない
Baby! また作れるだろう
守ってたものは
まるで価値ない過去
心に鉄球をぶつけろよ!
未来は与えられるより
自分で切り拓こう

変化を恐れるな、失敗を恐れるな、傷つくことを恐れるな。
何かに頼るのではなく、自分の力を信じて自分の道を切り拓いて行け。
そういうことでしょうね。

過去の栄光や名声にもたれかかっていたのでは、前へは進めない。
ましてやその栄光や名声が、先人たちが残してきたものであって自らが築き上げたものでなければ、いずれそれらの効果が薄れてきたとき、自分たちには何も残らない。
与えられたものをそのまま受け取って、そこに満足するのではなく、自分の未来は自分の手で切り拓いて行くことが重要なのですよね。

「心に鉄球をぶつけろよ!」というのは、なかなかインパクトのある言葉ですよね。
ぬるま湯に浸かっていないで奮起せよということなのでしょう。

ラスサビは1サビの繰り返しになっています。

芸能の要諦ようていは、常に新しいものを見せて観客を飽きさせないこと。
これは、以前にも取り上げたことがありますけれども、日本の芸能の始祖である世阿弥(ぜあみ)の言葉です。

見る者に驚きを与えて飽きさせず、常に惹きつけておくこと。
そして、慢心することなく常に新しいものに挑戦し続けること。
それが、芸能においては重要な心得だということでしょう。

約600年前にひとりの猿楽師さるがくしが残した戒めの言葉は、令和のアイドルグループにも十分に通じる内容なのではないでしょうか。

引用:秋元康 作詞, AKB48 「スクラップ&ビルド」(2012年)


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