ぶつくさ言わずに行動を起こせ! ~STU48『独り言で語るくらいなら』~
この曲は、STU48の6thシングルの表題曲になります。
これまでずっとシングル表題曲のセンターは瀧野由美子が務めてきましたけれども、この6thで初めて石田千穂がセンターを務めています。
かなりユニークな曲の構成で、サビで曲調がワルツに変わっている。
1番Aメロ
実際にこうした行動をとるかどうかはともかくとして、こういった気持になることってありますよね。
毎日毎日ぎゅうぎゅう詰めの通勤電車で会社に通っているサラーリマンならわかるのではありませんかね。
来る日も来る日も、代り映えのしない単調な毎日の繰り返し。
もちろん、会社に行けば行ったで仕事は忙しいのだけれども、やっていることにやりがいを感じているわけでもない。
しょせんは組織の歯車にすぎないわけですから。
生活のために、一応まじめに働きはするけれども……。
そして、何かと言えば結論の出ない無意味な会議ばかりをやりたがる上司、手柄は自分でミスは人のせいにする先輩、そうかと思えば、まともな会話が成立しない今どきの若手社員、口を開けばネチネチと嫌味なことばかりを言う古参社員など、会社内の面倒くさい人間関係にもうんざりしている。
毎朝、すし詰めの電車に揺られながら、自分は一体何をしているのだろうかという思いに囚われてしまう。
そんなとき、衝動的に反対方向の電車に飛び乗って、どこか見知らぬ土地に行きたくなってしまう。
この曲の主人公がどういった状況に置かれているのかはわかりませんけれども、おそらくこうした何か行き詰った閉塞的な心境にあることは間違いなさそうですね。
1番Bメロ
街は便利でにぎやかで刺激的ではあるけれども、それが時として鬱陶しくてたまらなくなることもある。
そんなときに向かう先は、人の姿がまばらで、都会のように人工物が激しく自己主張してくるような場所ではない海や山、あるいは田園など、そういった自然の風景が広がる落ち着いた場所ということになるのでしょう。
そのような場所に行けば、ゆったりとした時の流れに身を任せ、心静かに自分自身を見つめ直すこともできるというもの。
1サビ
誰にも届かない声でつべこべ言っていてもしょうがない。
そんなことをしているくらいなら、何も言わずに行動を起こした方がましなのではないか。
そうこの主人公は思い至るわけです。
「今の場所」というのは、事に臨むにあたっての今までのこの主人公の姿勢のことを言っているのではありませんかね。
独り言で何かブツブツ呟いてるだけの姿勢では、どんな想像をしようとも、何も始まらないし何も変わらない。
この主人公には、夢や理想など心に思い描いているものがあるのでしょう。
けれども、それを頭の中で想像しているだけで、はっきりと口に出して他者に伝えているわけでもなく、実現するための何らかのアクションを自ら起こしているわけでもないわけです。
それでは誰も気づいてはくれませんよね。
2番Aメロ
いつも通っている方向とは逆方向の電車に乗って、とうとう終着駅まで来てしまったわけです。
自分以外に乗降客は誰もいなかったのでしょう。
ひょっとしたら、無人駅で駅員もいないのかもしれません。
そんな誰もいない駅に降り立って、胸いっぱいに吸い込む空気は清々しい。
何かに反抗するために思い切ってここまでやって来たことに対する気持ちの昂りもあったのでしょう。
2番Bメロ
もしかしたら、この主人公にとって誰ともつながらない、誰とも関わらないというのが、極めて稀な状況だったのでしょうかね。
昨今では、ネットの発達によって絶えず誰かとつながっているといったような状況に置かれていますから、本当の意味で一人になれる機会というのが少なくなってきているということはありますよね。
なんだか煩わしいと言いましょうか、鬱陶しいと言いましょうか……。
まあもっとも、絶えず誰かとつながっているというのも、ある意味フィクションにすぎないような気もしますけれども。
常に誰かとつながっているという気になって、仮初めの安心感を得ているということなのでしょうかねぇ……。
いずれにせよ、一人になるという状況が、この主人公にとって新鮮なことだったのでしょう。
2サビ
何かを思い描いたり語ったりするだけなのと、行動を起こしてその何かを実現させようとするのとでは、天と地ほどにも違いがあるわけです。
この主人公は、いろいろと思うところもあったり、目指すべき理想も抱いていたりしたのでしょうけれども、これまでそれらを実現するために何か行動を起こすでもなく、ただ独り言で愚痴をこぼしているだけだったのではありませんかね。
自分を見つめ直すことで、そのことに思い至ったということなのでしょう。
「頬に触れる風を感じながら 深呼吸をひとつする」というフレーズに、この主人公の気持ちの転換が表されていますよね。
自らを顧みて、これから何をなすべきなのかの答えが見いだせたのではありませんかね。
想像しているだけでは、現実を変えることはできない。
自ら行動を起こして現実と対峙するしかない。
この主人公は、そう決意を新たにしたのでしょう。
Cメロ
「次の電車」というのは、この駅を出発点とする自分のいた街へ向かう電車なのですよね。
この主人公は、気持ちも新たに街へ帰ろうとするわけです。
自分が今何をなすべきなのかをもう十分に理解しているのでしょう。
ここで、「もう誰も もう何も 羨ましくなんかない」というフレーズが入っていることからして、もしかしたらこの主人公は、なかなか人に認めてもらえなかったり、活躍の機会を与えてもらえなかったり、あるいはあまり光の当たるようなこともなかったりといったようなことで、少々不貞腐れていたのかもしれませんね。
まあ何にせよ、人に届かない声でぶつくさ言っていてもしょうがないわけで、伝えたいことがあるのなら、はっきりと声に出すこと。
そして、何よりも、何か実現したいことがあるのならば、自らアクションを起こすことでしょうね。
落ちサビ
「僕の夢はもっと近くにある」と表現されているこの距離感は、「夢」そのものの物理的な距離感というよりも、「夢」を実現させる現実感のことを指しているのではありませんかね。
これまでこの主人公は、夢や理想を想像の中で思い描くことはあっても、それを実現させるための行動はとってこなかったわけです。
夢や理想も想像しているだけなら、それはいつまでたっても見果てぬ夢に過ぎませんけれども、いざ実現させようと行動し始めると、ぐっと現実的なものとして、手の届くところに近づいてくるような感じがしてくるものです。
一人になって自分を見つめ直すことにより、そういったことに気が付いたということなのでしょう。
大サビは1サビの繰り返しになります。
とどのつまり、何か実現したいことがあるのならば、独り言でぶつくさ言っていないで、自らアクションを起こしなさいということなのではありませんかね。
引用:秋元康 作詞, STU48 「独り言で語るくらいなら」(2021年)