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故郷への感謝を込めて ~NGT48『Maxとき315号』~

この曲は、NGT48の記念すべき初リリース曲になります。
ただし、NGT48のシングルデビュー曲としてではなく、AKB48の43rdシングル「君はメロディー」のカップリング曲としてなのですよね。

思えば、48グループの数多あまたある楽曲の中でも屈指の名曲とも言われるようになったこの曲が、NGT48名義のシングル表題曲としてリリースされたのではないということに、NGT48のファンの人たちは、やるせなさを感じているのではありませんかね。
このような変則的なリリースになったのには何かしら大人の事情があったのかもしれませんが……。

イントロ、アウトロの優しくも心地の良いギターの音色が郷愁を誘う良い曲ですよね。

1番Aメロ

最後のトンネルを
抜ければ近づく美しいあの街
希望が住むと信じて来た
私が生まれ育った
すべてを知って欲しい

「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。」という川端康成の小説『雪国』の冒頭を彷彿ほうふつとさせる歌い出しですね。
しかも、ここに描かれている「トンネル」の意味合いもほぼ同じと言って良いのでしょう。

その「トンネル」は同じトンネルではないものの、日本海と太平洋を隔てる中央脊梁せきりょう山脈をなす上信越国境の山々をくぐり抜けていくトンネルということでは、同じようなトンネルなのですよね。
夏はともかく、冬になるとこのトンネルの両端に広がる光景はまったくの別世界になる。
つまり、異世界を行き来する境界なのですよね、このトンネルは。

小説『雪国』の主人公は、東京から雪国の温泉宿にやって来る旅行者であるのに対して、この曲の歌詞で描かれている主人公は、故郷である雪国に帰ろうとしている帰省者になっている。
「最後のトンネルを抜ければ近づく美しいあの街 希望が住むと信じて来た」という物言いに、わが故郷に対するこの主人公の深い愛着を感じさせてくれます。
そしてその場所には、そこで生まれ育ったこの主人公の大切な思い出が詰まっている。

1番Bメロ

一番大事な人を
連れて帰ること
出会ったあの夜
約束した

「一番大事な人を連れて帰ること」というのは、字面じづら通りに解釈すれば、恋人か婚約者を連れて帰るということになるのでしょうけれども、もうすこし掘り下げてみると、希望を胸に上京し、何がしかの成功を収めて凱旋がいせん帰郷する、つまり故郷に錦を飾るという意味も含まれているのではありませんかね。
夢を叶えて、その誇りを胸に故郷の人々に恩返しをするために帰郷するといったところでしょうか。
つまり連れて帰る(持ち帰る)のは、上京して戦い抜いて掴み取った「誇り」なのではありませんかね。

1サビ

未来はいつも思ったよりも
やさしくて
風景がふいに滲んで来る
夢が叶うと
その想いが溢(あふ)れ出して
瞳から伝えたくなる
あなたと一緒に歩きたい

期待に胸を膨らませて上京したのでしょうけれども、その期待の大きさと同じくらい、これから先どうなってしまうのだろうかという大きな不安もあったはずです。
もちろん、いろいろと苦労もしただろうし、辛いこともあったでしょう。
けれども、時が経って何がしかの成功を手にしたとき、不意に目に浮かんだのは、懐かしくて美しい故郷の風景であり、自分を支えてくれた大切な人々の顔だったりするわけです。

「夢が叶うと」というのは、これから夢を叶てみせるぞという意気込みを表しているのではなく、文字通り夢が叶ったということを言っているのですよね。
自分の夢を叶えることができて、故郷の人々への感謝の想いが溢れ出してきたということなのでしょう。

2番Aメロ

季節の移ろいは
成長して行く心に似ている
いろんな花を咲かせながら
時には思い悩んで
大人になって行く

春に芽吹いて、夏に活気づいて色鮮やかな花を咲かせ、秋にはその花を落として豊かな実りをもたらし、冬には次の芽吹きに備えてエネルギーを蓄える。
そして、春から夏に移り変わる際には梅雨の長雨に晒され、夏から秋に移り変わる際には台風の暴風雨に見舞われ、冬には冷たい風雪に耐えなければならない。
どこか人が成長していく過程にも似ていますよね。
何か新しい夢や目標を抱き、その夢や目標の実現を目指して懸命になる。
いずれ何がしかの成果を上げ、経験を積み重ねていく。
そして、次の挑戦に向けて休息もし、内省して準備をする。
もちろんその過程においては、成功や失敗、出会いや別れ、喜びや悲しみなど、多様な経験をしていくことになるわけです。
そうしたことを通して、人は大人へと成長していく。

2番Bメロ

遠いあの空の下から
見守ってくれた
誰かの存在
支えになった

いつだって心の支えになってくれているのは、故郷で見守ってくれている人々、家族であったり、友人であったり、恩師であったり、あるいは幼いころより顔なじみの街の人々であったりするわけです。

2サビ

未来はいつも姿見せずに
待っている
弱音吐き甘えないように…
愛とは涙
人のために泣けることね
幸せを噛み締めている

夢への道のりは決して平坦ではないわけです。
行く先々に、さまざまな試練が待ち受けている。
不安にもなるだろうし、迷いもするでしょうし、打ちのめされもするでしょう。
それでも、夢を叶えたければ、弱音を吐かずに努力し続けるしかないのですよね。

「愛とは涙 人のために泣けることね」とは、喜びのときも悲しみのときも、百万言の気の利いた言葉よりも、ともに涙を流してくれることこそが愛なのではないかということなのでしょう。
歌詞は「幸せを噛み締めている」と続いていますから、その愛を受けているのは、この主人公ということになります。
つまり、そういった愛を自分に注いでくれる大切な人たちがいるということに幸せを感じているわけです。

Cメロ

深い雪もやがて溶けて
大地は新しい芽を出す
苦しいことも悲しいことも
喜びに変え 笑顔になれる
いつだって明日(あす)は来る

日本列島の新潟県を中心とする日本海側は、世界でも有数の豪雪地帯であり、冬には重い雪に閉ざされる。
それでも、春になり雪が融けてくると、大地から新しい芽が顔をのぞかせる。
苦しいことや悲しいことがあっても、その後には必ず喜びが訪れる。
そう、いつだって明日は来るのです。
そう信じることこそが、希望というものなのではありませんかね。

ラスサビは1サビの繰り返しになっています。

さて、この曲ですけれども、秋元PからNGT48のメンバーたちへのメッセージが込められた曲でもあるのですよね。
この曲の主人公をNGT48というグループないしはメンバーたちに、そして、故郷の大切な人々や歌詞のサビにある「あなたと一緒に歩きたい」の「あなた」というのを、応援してくれるファンの人たちや地元新潟の人たちのことと置き換えて読み直してみると、そっくりそのまま成り立つ話になるわけです。
つまり、「自分たちを支えてくれる人たちへの感謝の気持ちを忘れずに、夢に向かって頑張りなさい」ということを秋元Pは言っているのではありませんかね。
NGT48の始まりの歌に、秋元Pはそういったメッセージを込めて、この曲を送ったのでしょう。

引用:秋元康 作詞, NGT48 「Maxとき315号」(2016年)


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