一介の物書きとして―「楽曲キャッチコピー」とレビューを書く意識
はじめに
こんにちは、せつなです。
主にBUCK-TICKというバンドの楽曲レビューや評論を書いてます。
今回は、楽曲レビューを書く時の自分なりの意識について書いていきたいと思います。
なぜこんなことを書こうと思ったかというと、レビューの色々な形やレビューを書くことで伝えたいのは何か?と考えていた時、自分なりに大事にしたい部分というのが朧げながら見えてきたからです。
それが自分の中でとても大切にしたい考えだったので、ここで文章として形にしておきたいと思います。
レビューの書き方と伝わり方
はじめに、レビューの形について考えたことを書いていきます。
まずは先日私のnoteに上げた『ABRACADABRA』のレビューの形について。
これは私がこのアルバムを初めて聴いた時の印象を大事にしようと思って書いたものです。
その瞬間に考えたことをそのまま書いているので、勢いだけは伝わるのではないでしょうか?
このような形はかなりファン向けのレビューで、BUCK-TICKを聴いたことがない方にはあまり向かないと思います。
メンバーの呼称もあだ名で書いてますし。これはファンじゃないと分かりませんからね。
かくいう私も、お魚さん(BUCK-TICKのファン)同士で話しているようなイメージで書いていますから。
もうひとつ、私がnoteに上げた『堕天使』についての文章。
これは逆に、ものすごく堅い文章で書いてます。
レビューというよりは論文に近い感じ。
筆者は大学時代の卒論を書いた経験から、なにかを「論じる」という行為がものすごく好きになりまして。
この文章も、BUCK-TICKを「論じる」、櫻井敦司の表現を「論じる」という意識がすごく強いです。
なので、歌詞だったりインタビューだったりを引用しまくっています。情報を集めないと論文は書けないので。
ただこれもファンの方向け、しかもお堅い文章を嫌わずに読んでくださる方にしか刺さりません。
(お堅い文章は苦手って方、絶対いらっしゃると思うんです...逆に言えばくだけた表現が苦手という方もいらっしゃると思います。)
そもそもBUCK-TICKを聴いたことがない人は、この堅い長文は読み切れないんじゃないかな。
では、まだBUCK-TICKの音楽を聴いたことがない人に情報を伝えるとなると、もっと端的で分かりやすいものが要求されるということです。
そういうことを考えて最終的に行き着いたのが、「楽曲のキャッチコピーを決める」ことでした。
ひとことで楽曲のイメージを伝えられるような言葉。
面白そうだな、と思ってちょっと考えてみることにしました。
例として、最新アルバム『ABRACADABRA』の曲を使ってみます。またレビューすんのかい。
でもさっき挙げたのとはちょっと違うものになると思います。色々考えつつの過程を見てもらえればと。
キャッチコピー試作―『ABRACADABRA』① 1曲目〜6曲目 『Villain』で浮かび上がった悩み
1.PEACE
「アルバム13曲目『ユリイカ』を再構築したSE。空を突き抜けていくイメージでどんどん上っていく。」
2.ケセラセラエレジー
「エレクトロなサウンドが"幻想の始まり"を告げる幕開けの一曲。」
3.URAHARA-JUKU
「少女が見たのはすぐそこにある裏の世界。危険は案外すぐ傍に潜んでいる。」
4.SOPHIA DREAM
「浮遊感漂うメロディーが"空の上"へと誘う。ループする構成が聴く者を酔わせる。」
5.月の砂漠
「駱駝に乗り、夜の砂漠を進む孤独な男。どこか遠い異国の地を聴き手に想起させる一曲。」
6.Villain
「ネット社会で問題になっている誹謗中傷。傷つけられた者の怒りを叫ぶ。」
これはちょっと迷った。テーマになってる部分をストレートに書くべきか。
これだと今井パートのことがあんまり分からないかな?とか。
でも端的に表すとしたら書くしかないのかな、と思ってこういう感じに。
あえて今井さん寄りに考えるなら、歌詞にこのアルバムを制作した時のキーワードである「逸脱」っていう言葉が出てくるので、それを使えばうまくまとまるかも。
そしてこの先の曲たちで「これは書くのか?書かないのか?」について悩むことになる。
キャッチコピー試作―『ABRACADABRA』② 7曲目 『凍える』はどう伝えるべきか
7.凍える Crystal CUBE ver.
「月が手首を滑る。それは苦しみからの解放を願うもの。良い子だね、さあおやすみ。」
この曲はどこまで書くべきなのか?ものすごく迷った。
歌詞のテーマは言ってしまえば「自傷」なんだけど、それをどう伝えたらいいのか。
うーん...難しい。
場面展開が少ない歌詞。月と自分と窓と闇、それだけの世界。あるのは意識の浮き沈みだけ。
これをテーマそのままに言ってしまうと、ただ単に「自傷」するだけの曲になってしまうから。
それだけじゃないことはどうすれば伝わるんだろうか。
あとは「子守唄」のイメージをどこかに入れたかったんだけど、ちょっと盛りだくさんすぎるかな?
楽曲が寄り添ってくれているっていうことを表現したい。
というか、この曲は歌詞が完璧すぎるからどこかを崩すとおかしくなっちゃうんだよね。
"凍える月が滑る この手首にそっと"ですよ?こんな詞書けませんわ...。
で、悩んだ結果上記の感じに。
テーマが分かるか分からないかギリギリのところをいったつもりなんだけど..."滑る"だと分かりやすいかな?
「月が手首に"触れる"」でもいいんだけど...どちらを取るか。
キャッチコピー試作―『ABRACADABRA』③ 8曲目〜9曲目 『ダンス天国』はどこにフォーカスする?
8.舞夢マイム
「歌謡曲的なメロディーに新宿の片隅の男女が重なる。一人二役の歌い分けが光る曲。」
9.ダンス天国
「"Majority"も"Minority"も"女"も"男"もどっちでもいいのさ、皆で踊りましょう?」
これもまためちゃめちゃ難しい。
ほぼ歌詞の引用だし...。
この曲は要素がありすぎて、なにを書くか選ぶのが難しい。
テーマ的にはLGBTのことなんだと思うけど、あんまりそっちに行きすぎると曲の雰囲気を損なっちゃうような気がして。本当に何気ない感じで出てくるから、取り立てて言う必要もないのかな?と思ったり。
あとこの曲は別の作品からのオマージュがいっぱい入ってて。
『ダンス天国』っていう題名がまずオマージュなんだってね。同名の曲があるらしい。その曲中に出てくるのが「マッシュポテト」だったり。
あとは三島由紀夫の「仮面の告白」をモチーフにしてるとも言ってるので...。
盛りだくさんすぎてどこにフォーカスすべきか迷う。
しかもまたこの曲も絶妙なバランスでできていて。
どれかの要素を強くしちゃうと、バランスが崩れてもう別ものになってしまうんだよね...。
色々考えたものの、最後は結局一番のテーマっぽいところへ帰結。
これを上手く言い換えられればなお良しかな?今のままだとただの歌詞の組み合わせなので...。
キャッチコピー試作―『ABRACADABRA』④ 10曲目〜12曲目 『MOONLIGHT ESCAPE』はあえて伝えた方がいい?
10.獣たちの夜 YOW-ROW ver.
「さあ、闇夜に集う獣たちの饗宴が始まる。この瞬間新しい獣がまた1匹、目覚めた。」
11.堕天使 YOW-ROW ver.
「愛なんて幻想、そう言い聞かせていたのに。愛を与えるならいっそ殺して。」
12.MOONLIGHT ESCAPE
「パパ、ママ、ごめんね。行ってくるね。苦しみからの「逃避」を肯定し、寄り添う一曲。」
この曲もテーマがすごくはっきりしていて。
児童虐待のニュースを見て作られた曲。
「逃げてもいいんだよ」というメッセージ。
果たしてどこまで書くべきか...。
これも結構考えたけど、あえてテーマを伝えた方がいいのかなと思った。
というのも、この歌詞ができたきっかけは「虐待」っていう「事実」のひとつだった。そこには逃げられなかった子どもたちがいた。
その「逃げられない」っていう思いは、虐待に限らずもっと色んな解釈で捉えられるような気がして。
家族っていう「逃げられない」場所で悩んでる人、それ以外にも人間関係の「逃げられない」場所で苦しんでいる人、学校や職場の「逃げられない」場所で辛い思いをしている人。
そういう「逃げられない」っていう思いに寄り添って、「逃げていいよ」って言ってくれてるのがこの曲だと思う。
そこまで解釈を広げようとすると、やっぱり最初のきっかけってとても重要で。
だけどあまり直接的には書きたくなくて、うまく言葉を使って表現したかったんだよね。
それがすごく難しいんだけど。
キャッチコピー試作―『ABRACADABRA』⑤ 13曲目〜14曲目 『忘却』の解釈の余地
13.ユリイカ
「「ABRACADABRA」という疫病退散の呪文をのせた、ストレートなエイトビート。こんな時期だからこそ「あ、これでいいんだ。」」
14、忘却
「皆通り過ぎていってしまう、あの風のように。でもどこかに、確かに感じるのはあなたのぬくもり。」
この曲に関してはあんまり多くを語らない方がいいのかもしれない。
聴く人によって解釈の余地があると思うから。
聴いてるうちにその人の中で色々思い出したこととか感じたことを大切にしてほしい曲。
とか言いつつネタばらししすぎな気がする。
最後のワンフレーズの"誰も 通り過ぎてゆく"が良すぎて使いたいなって思ったので書いてみたけど...。
あの部分は最後まで聴いてのお楽しみにするべきか。
代替案として、前半部分を「忘れてしまった、あの瞬間のこと。」みたいなストレートな感じにするとかはどうだろう。
こっちの方がメッセージは伝わりやすいかな。
おわりに―見えてきたもの
ここまで、BUCK-TICKのニューアルバム『ABRACADABRA』の楽曲にキャッチコピーをつけるという作業をしてきました。
そこで気づいたことがあります。
考える時に悩んだ曲はどれも明確なテーマがあるものでした。
特にリアリティのあるテーマのもの。
それを直接的に表現するのか、なにか別の言葉で表現するのか。
この曲はこういうテーマだとはっきり言ったほうがいいのか、それともあえて目に触れないようにするか。
基準はなんだろう。まだ私の感覚的な部分が大きいかもしれません。
ただ、こうやってキャッチコピーを考えていく上で思ったのは、レビューで明確な答えは極力言わない方がいいのかな?ということ。
まだ楽曲を聴いたことがない人に読んでもらうようなレビューは特に。
この曲はこんな曲です!って言い切っちゃうと、聴き手それぞれの解釈を塗りつぶしてしまうような気がするから。
この辺りのことは以前の楽曲にも言えて。
例えば『No.0』に収録されている『ゲルニカの夜』。
これは誰がどう聴いても「反戦」の歌なんだけど、でもそれだけじゃない。
櫻井敦司が投げかけてくる問いを、聴き手それぞれが受け止めて考えなきゃいけない。
そこをすっ飛ばして「戦争反対」じゃだめなんだよね、という。
もうひとつ例を挙げると『極東より愛を込めて』。
この曲は9.11を受けて作られたんだけど、でもそれだけじゃない。
もちろんその楽曲が制作される過程においてはすごく重要なことなんだけど。
その情報を先に伝えてしまうと、聴く時の視野が狭くなっちゃうんじゃないかと思うんだよな。
逆に言うと、同じ「反戦」というテーマを歌っている『楽園』なんかはメッセージをちゃんと伝えた方がいい曲かも。
ブレようがないというか。
やっぱり基準は自分の考えになっちゃうけど。
あともうひとつ思ったことがあって。
それは「私はメンバー本人じゃない」ということ。
当たり前じゃんって感じですが、メンバー本人ではないからその曲を作った真意は分からないんですよね。
だからこそ、インタビューとか読むことでちょっとでもイメージを共有できるというか。
そうして読み込んだ情報を噛み砕いて表現できるようになればいいのかな、と思いました。
でもそれだけだと丸パクリなので、自分なりの考えや解釈なんかも入れつつ書いていかないとなーと。
そのバランスが難しいんですけどね。自分の考えを入れすぎても「それ違うじゃん」ってなるし。
結局は、書いていくうちに表現方法や感覚を磨いていくしかないなっていう結論に至りました。
でも大事にしたい部分はちょっと見えた気がする。
私が目指したいところは。
「楽曲のイメージは崩さず、聴き手それぞれの解釈により深みを与えられるようなヒントをさりげなく伝えられる文章を書く。」
ということ。
ちなみに私のnoteは、普段はBUCK-TICKファンの方に読んでいただくことを想定して書いてます。
ですが、noteはフィールドが広いのでファン以外の方の目に触れる機会も多いのかもしれないなと思って考え始めたことが今回の気づきに繋がりました。
今後も表現の枠に囚われず、色々なスタイルで文章を書いていけたらと思います。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!