人間の会話に飢えているときに「Crony」 第1回
2017年10月。私は猛烈に疲弊していた。今まで感じたことのない種類の疲れであった。
その年の7月に人生初の転職をしたばかりの私がその頃感じていたのは「コミュニケーション飢餓」。新しい業務になかなか慣れることができず、また業務そのものも難しかったのだが、それを上回って感情のTOPに来ていたのはこれだった。
そのコミュニケーション飢餓を埋めるべく、私は家の近所にあるCrony(クローニー)というBARに通った。通い詰めた。元々常連でよく行っていたのだが、この頃の私は4日連続行くときもあったし週に5日行くときもあった。
Cronyのマスターは谷口さんという男性。45歳で脱サラして念願のBARをオープン。働いていた会社の理不尽さに疲れてお店を開くという夢を叶えた谷口さんは、私の話をいつも親身になって聞いてくれる。「ちょっとそれ会社おかしいんじゃないの、今時そんなのあり得ない」など。と思えば、「宇宙人は本当にいると思うか」という議論をしたり「中野のあのラーメン屋はおいしかった」と勧めてくれたりもする。
やがて通っていると他の常連さんとも会話に花が咲くようになる。中高生時代に流行ったジャニーズの会話をする年が近い人、自分の状況に耳を傾けてくれる父親くらいの年齢の人。マスターも他のお客さんも、距離感を保ちながら心地よい会話を私と一緒にしてくれるのだ。
会社では入社日含め一度も部署の人とランチに行ったことがなく、「ロボットが集まっているみたい」と言われるその環境は私には耐えがたかった。おしゃべりがしたい、ラフな環境にいたいという意味ではない。人間の会話がしたくて、とにかくCronyで飢餓を埋めていった。Cronyがなければ半狂乱になっていたかもしれない。
その会社を半年で辞めたが、今も私は誰かとしゃべりたいときにCronyに行くのだ。
私のコラムでは、日々それぞれ異なる疲れに効く“東中野のエスケープ場所”をお送りしていきたいと思う。
SHOP DATE
Crony(クローニー(現:gluon)
住所:東京都中野区東中野4-23-1
営業時間:20時~翌3時
定休日:日祝
2018年1月にgluon(グルーオン)という名前に変えてリニューアルオープン。自分のエピソード時期に合わせ、敢えて旧店名であるCronyを文中では採用いたしました。
企画メシ4期の有志で寄稿するコラム集、「コラム街」。
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https://note.mu/bookandmusic/n/n918043f2d2f2