【千文字書評】21 Lessons 21世紀の人類のための21の思考 Y.N.ハラリ
謙虚さ
イスラエルの歴史学者、ユヴァル・ノア・ハラリは、『サピエンス全史』において人類がどのような歴史をたどって現在に至ったのか、そして『ホモ・デウス』において文明が発展していく中で遠い未来に人類がどうなるのかを考察した。
『21 Lessons 21世紀の人類のための21の思考』は、それに対し、より現在、僕たちが直面している課題(テクノロジーと雇用、民主主義の危機、フェイクニュースなど)について語った本である。
この本は、千葉に住む両親に地方移住を反対され喧嘩をした後、瀬戸内に帰る飛行機の中で初めて読んだ。
地方で生きることを選択する自分が、今、グローバルな世界の中でどんな位置にあるのか。そんなことを考えた、個人的な記憶がある。
本書を読んでいて、ハラリという人は、本当に頭の良い人だと感じる。その頭の良さとは、「自分」というものの立場・限界をとらえた上で思考をしようとする、謙虚さに由来するものだろうと思う。
苦しみの正体を具体的にみること
本書の扱っている数々の現代の課題は、解決なんてそもそも可能だろうかと思えるほど、どれも難しい。これを読んでいると、人類の行く末に絶望しかないような気になってくる。
そんな中を、現代の人間がどう生きればいいか。
ハラリは、「瞑想」を、レジリエンス(この状況を持ちこたえる力)を持つための方法のひとつとして提示する。
瞑想とは、人間が作り出す「ナショナリズム」「宗教」といった”物語”から離れ、今ここで自分の体に具体的に起こっていること、そして(想像のものではない)苦しみにフォーカスするための技術だ。
けっして楽観視せず、かつ絶望もしないための技術。こういう考察の中で、最後にこのようなことに言及することに、ハラリのバランス感覚を感じるし、「自分たちは、これも解決できる」といった、過大な期待によって逆に世の中を悪い方向にもっていくことを、慎重に避けようとしているのだな、と思う。
現代の日本に生きていて、猛スピードで進む人口減少、経済の低迷と貧困化などに、漠然とした不安がある。
結局、自分たちに必要なのは、こういった「漠然とした不安」の正体を、もっと具体的に突き詰めることなのではないかと思う。
突き詰めたうえで、解決しがたいことを解決しがたいと認めて、耐えること。そして、解決できることは、解決できるようにがんばること。
それが、今後、やるべきことなのかもしれない。