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小池博史 火の鳥プロジェクト「Breath Triple」の凄み

Breath Triple公演に2日連続通った。

空間演出家・小池博史さんの最新作「Breath Tripel」を、本番2回(2日連続)拝見した。
1公演だけ予約を入れていたのだが、稽古を1度拝見し、「これは1回では足りない!」と直感し、急きょ、予定観覧日の前日にも会場に走った。
理解するため、ではなく、1回では絶対に後悔すると思ったから。

本当に良かった。
1日ごとに演者のエネルギーが違うのも醍醐味であるし、なにより、1日目は緊張感あふれる探検のよう、2日目は純粋に舞台を存分に楽しんだ。
1日目に「なぜ?」とひっかかったシーンは、2日目には「そうか!」と合点し、セリフのひとことひとこと、隅々までが心に届いた。

これまでSNSの記事で「小池さんの舞台は情報量が多い」と何度か書いてしまったが、今後はもう「情報量が多い」と書かないようにしようと思った。不必要なものは何もないからだ。

実は2009年頃だったか、パパタラフマラ時代の作品「ガリバー&スウィフト」を観たときに、普通の舞台2~3本分くらいの要素が詰め込まれていると感じた。今の小池さんの作品は、そうは感じない。どんなに要素が多くても、この作品、今、この時に必要だとわかるから。

小池さんの「舞台芸術の学校」からの縁

2020年に、小池さんの「舞台芸術の学校」で学んだサーカスアーティスト谷口界さんと、ダンサー野瀬山瑞希さんが瀬戸内に移住してきて、私たち瀬戸内サーカスファクトリーと活動を共にするようになった。
彼らの口から、何度となく「小池さん」の名前や、彼らに刻み込まれた刺激と学びについて聞いただけでなく、私たちの創作のために「衣装デザイナーを探している」と彼らに相談すると、「小池さんの舞台で衣装を作ってる浜井弘治さん」、「美術では?」「小池さんの舞台美術を作っていた田中真聡さん」、「音楽家こういう人いないかなぁ」「小池さんのところで知り合った下町兄弟さん」
…てな具合で、小池さんに直接お会いする前に、小池さん創造ネットワークに(意図的ではなかったのですが)助けていただいた(どころではない)のでした。
2023年、さすがにきちんと舞台を観に行き、ご挨拶もしないと!と、「WE-入口と世界の出口」のゲネプロにお邪魔したら…
もう、びっくり。なんだこれは!!と、しばらく声も出ず。

観たのはゲネプロ(本番さながらのリハーサル)なので小池さんからすれば「本番は別物」という違いがあった筈ですが、それでも、木場の「Earth + Gallery」の小さな空間が、時空を超えた宇宙になり、ひととき、ほんとうにタイムマシンに乗せられてしまった…。

そこから3作品連続、香川⇒東京と観に走った。

Breath Tripleの臨場感


Breath Tripleは19世紀末のブラジルで起きた「カヌードスの乱」という、権力による小規模宗教集団の撲滅という驚愕の史実を土台にし、乱に関わった3つの立場の人々が亡霊として私たちに語りかけてきたり、まさにその闘争の瞬間に引きずり込む。
時間、空間を瞬間移動しながら、じわじわと、現代の私たちが生きる世界とカヌードスの凄惨な事件の当事者たちが重なり合い、交錯し、舞台上と客席も(実際には向かい合っているのだが)境目を失ってごちゃまぜの感覚が支配する。

Earth + Galleryでの小池公演の醍醐味は、まさにその狭さにある。
音楽家を合わせて6人が縦横無尽に動き回るわけだが、到底それが可能と思えない舞台の狭さである。光や映像によって宇宙空間に広がったかと思えば、音によって瞬時に収縮し、あるいは無になり、方向性も次元の指標も失くなる。

舞台をつくる者として、心から観てほしい、そして舞台について話したい。

複数の人たちが「小池博史は指揮者だ」と言った。音、動き、空間全てを毎瞬時に指揮する。創作が始まる前には小池さんの頭の中ではすべて書き込まれていて、実際の稽古で現実の動きや音とともに膨らみ、あるいは削られ、最終的に本番で完成する。

こんなに緻密でコントロールされているのに、何度見ても新しいのは、役者、音楽家ひとりひとりが、常に限界に晒されているからではないか?と思う。
コントロールしきれるか、しきれないかの、ギリギリ。
その本物のスリルが、観る者を掴んで離さないのかもしれない。

いま、小池さんの舞台を、さまざまな人に観てほしいと、心から思う。
自分がここまで惹き込まれたのは、いま、すごい勢いで進化していて、見逃してはいけないと直感したからで、
かつ、加速度的に進化していると感じるからで、小池さん自身が「表現できることがどんどん増えている」というのは、見ていたらわかる。
私も舞台をつくる端くれとして、こういう進化は、舞台芸術界広しとはいえ、”滅多に”見られないとわかるし、
こういう進化は、永遠に続くものではないこともわかる。
なぜなら、命には限りがあるからで(みんなね)、スパークする瞬間は、そこに立ち会えるかどうかで、すべてが決まる。

舞台は生もの、とよく言うけれど、本当にそうだから。
舞台が好きなら、舞台に関わっているひとなら、見てほしいというのはそのため。
そして、感想を言い合いたい!

Breath Triple


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「現代サーカスの覗き穴」by 瀬戸内サーカスファクトリー田中未知子
瀬戸内サーカスファクトリーは現代サーカスという文化を育て日本から発信するため、アーティストをサポートし、スタッフを育てています。まだまだ若いジャンルなので、多くの方に知っていただくことが必要です。もし自分のnote記事を気に入っていただけたら、ぜひサポートをお願い申し上げます!