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900年前から変わらない漫画(戯画)の世界「鳥獣戯画 甲巻」 (鳥羽僧正 覚猷 1053-1140年)

(「美の巨人たち」テレビ東京放映番組<2019.4.20>解説より引用) 

 高山寺の石水院蔵。作者は、鳥羽僧正 覚猷(とばそうじょう かくゆう 1053~1140 平安時代後期)とされているが、実際のところは謎である。

   蛙や兎の動物が、人間の姿で登場したかと思えば、空想上の動物なども描かれている。

 番組では、大阪・中之島の香雪美術館での展示・鑑賞シーンから紹介された。まさに、自由奔放に、何ものにも拘束されることなく、のびのびと生き生きと、そしてユーモラスたっぷりに描かれている。

 鳥獣人物戯画の「甲巻」。他に、空想の動物を描いた「乙巻」。動物と人間を描いた「丙巻」。人間だけが描かれた「丁巻」。それでは、一体この作品、一体誰のために、何のために描かれたのか・・・ファンタジーに包まれるこの絵巻は、いまだに謎だらけの4巻(甲・乙・丙・丁)である。

 甲巻では、冒頭ウサギ、カエル、サルが登場。楽しげでそれぞれの表情がやわらかい。楽しい。ユーモアに溢れている。絵巻をすすめていくうちに、やがて登場する動物の間での、ヒエラルキー(階層序列)といったものが、表現されてくる。サルが僧になったり、カエルが御経を唱えたり、ウサギとカエルが相撲で争ったりと・・・

 最も有力とされる作者・覚猷(かくゆう)は、滋賀県・大津市の三井寺に入り、40歳から20年間にわたり籠り、「修験道」(山岳信仰と仏教が結びついた信仰)を行じていたという。

 彼は、人間社会の成り立ちを、面白おかしく描いたのではないか。

 というのも、平安時代後期の時代背景として、貴族から武士、そして「驕れるものは久しからず」という人間社会を、アイロニー(風刺)を込めて、描いたのではないかと推測できるからである。

 以前の同番組で本テーマを取り上げた際には、当時の仏教関係の絵師が、余技的に、プライベートに描いて、仲間内で観て楽しんでいたのでは・・という説が有力であるとしていた。

 今回登場した、鳥獣戯画を調査・研究している五月女晴恵さんによると、コノハズクが、大きく目をあけていることを理由に、甲巻のシーンは「夜の情景」として描かれていると推測する。コノハズク、ウサギ、カエルも「夜」の象徴。「月の精」ともされていると。

 このことを修験道に絡めて、ゲストの井浦新(いうら あらた)さんは、「聞こえないものをいかに聞くか。見えないものをいかに見るか」として、人間社会に対して、「自然の声に耳を傾けよ」と、覚猷(かくゆう)は説いたのではと推測する。

写真: 「美の巨人たち」テレビ東京放映番組<2019.4.20>より転載。同視聴者センターより許諾済。「鳥獣戯画 甲巻」の一部(鳥羽僧正 覚猷 作 1053~1140年 平安時代後期)

(番組を視聴しての私の感想綴り)

 この作品。高校の歴史の教科書の、カラーグラビアページなどで、観た覚えのある人は多いのではないか。それにしても、今から900年も前の時代に、これだけのエンターテインメント性豊かな作品が、存在していたこと自体驚きである。

 あの天才漫画家、手塚 治 氏は、「やられた。もはや脱帽である」「漫画は900年前からちっとも変わっていなかった」と語った。その想像力というか、自由奔放な世界観、自然観、構想感といったものに、脱帽なのであろう。しりあがり寿 氏(漫画家・手塚治虫文化賞など受賞 代表作「真夜中の弥次さん喜多さん」)によると、「次を読ませる工夫がある」「視線誘導がこのころからあった」と。

 「日本のアニメ」は、いまやクールジャパンの代名詞といってもいいくらいに、世界から数多くのアニメファンが誕生していて、インバウンドのけん引役になってもいる。コスプレにみられるようなアニメ、サブカルチャーは、一大マーケット(商圏)を形成しているといってもいい。

 もはや学生時代には、単に「面白い絵」として済ませてしまっていた「鳥獣人物戯画」であるが、改めて見返すに、「漫画アニメの原点」、そして、「ユーモアの源泉」ここにありといった風で、堂々としている。

 やはり興味を引くのは、日本の伝統文化による踊りのパフォーマンス(例: 歌舞伎、能、京舞など)や、浮世絵、日本画などと、アニメアイドルによるパフォーマンスの共演・コラボレーション、現代アートなどによる、3Dなども駆使した「新しいデジタル演出表現技法」の登場である。

 インディペンデント・キュレーター、スター・キュレーターが、そうしたプロデュースを手がけるとすれば、まだまだ表現やパフォーマンスにおける未知の可能性が、無限大に広がっているのではないか。そしてそれらは、従来の「博物館」「美術館」「ミュージアム」の概念すら、飛び超えていく可能性も秘めているのではないか・・・

 いずれにせよ、漫画の原点に近いであろう今回の作品が、「900年前からすでに描かれていた」といわれれば、やはり素直に脱帽である・・・ 

 最後に付け加えれば、コロナ感染とは結びつけることはないものの、ウイルスは、地球上にある自然界では、ある意味人類より先に生存していることになるのか。

 「自然の声に耳を傾けよ」とは、自然の時代に還れではなく、自然とともに、地球とともにある人類は、賢明に寄り添い、共生の道を探れと教えてくれているのかもしれないと感じた。コロナ絶滅が困難であれば、賢く共生していくしかないということなのかと・・・ 

 2021年4月30日〜5月30日までの期間、東京国立博物館において、タイムリーにも、「鳥獣戯画」の企画展示を開催中(平成館・特別展示室にて)である。

 しかしながら、残念にも今夜(4月23日)の報道では、4月25日〜5月11日まで、東京、大阪、京都、兵庫の4都府県で、緊急事態宣言の再発令(3回目になる)が決定したとのこと。入場の可否、鑑賞方法など、詳しくは開催会場まで問い合わせしてみていただければと。

https://www.tnm.jp/modules/r_free_page/index.php?id=2009#midokoro

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