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関節夫のひと息小説24 駅
#関節夫のひと息小説24
駅
圭介は電車に乗り込み、窓際の席に座った。発車ベルが鳴り、車内の静寂が胸に重くのしかかる。窓の外にはいつもの街並みが流れていたが、どこか色褪せて見えた。
「この駅に降り立つことは、もうないだろう」
そう思った瞬間、真里子のアパートを出たときの彼女の姿が浮かんだ。何も言わず、ただ目を伏せていた彼女の表情が離れない。別れを切り出したのは自分だ。それでも胸に残るのは後悔か、それとも未練か。
次の駅で、白いワンピースを着た女性が乗り込んできた。一瞬、真里子かと思い動揺したが、見知らぬ人だと気づき、圭介は自嘲気味に笑った。別れると決めたのに、まだ彼女を探している自分がいる。
スマートフォンを取り出し、無意識に真里子との最後のメッセージを開いてしまう。「ありがとう」という短い言葉が、画面の中で静かに光っていた。それが感謝の言葉なのか、諦めの表れなのか、圭介にはわからなかった。ただ、この駅を出たことが、二人にとって最善だったのだと信じたかった。
次の駅で降り、改札を抜けながら圭介はもう一度振り返った。この駅に戻ることはない。それでも、歩き出すしかない。冷たい風が吹き抜ける中、彼は少しだけ軽くなった足取りで街の中へと消えていった。