見出し画像

#関節夫のひと息小説13 私のこころは何色かしら

#関節夫のひと息小説13

私のこころは何色かしら?

圭介は大学生の頃、一人の女性と同棲をしていた。その彼女、真理子は心に深い闇を抱えていた。穏やかな日もあれば、急に涙を流し、何も言えないまま佇む日もあった。圭介はそんな彼女を支えようと努めていたが、何をどうしていいのかわからない瞬間がしばしば訪れた。

秋の澄んだ空気の中、二人は並んで歩いていた。空は高く、透き通るような青色だった。真理子はふと立ち止まり、空をじっと見上げた。その瞳には何かを求めるような切実な光があった。

「圭介、あの空に私を映したら、何色になるのかしら?」

彼女は静かに言った。その声には微かな震えがあった。圭介は思わず彼女の横顔を見つめた。普段は柔らかな表情を見せる彼女が、どこか遠くを見つめるような瞳で空を見上げている。

答えを求められているのは分かっていたが、圭介は言葉を見つけることができなかった。青い空に映る彼女は、透明な水滴のような気がした。どこまでも澄んでいて、どこか儚げで、触れればすぐに消えてしまいそうな、そんな存在に思えた。

「何色だろうね……」

ようやく搾り出した言葉は、答えには程遠いものだった。真理子は微笑んだが、その笑顔には何かしらの諦めが感じられた。

秋風が二人の間を吹き抜けた。その風はまるで、真理子の問いに答えを持っているかのように、空から降りてきた冷たい空気を届けていた。

圭介は何も言えず、ただその場に立ち尽くした。彼女の心に触れることの難しさを、彼は改めて痛感していた。真理子の問いは単なる言葉ではなく、彼女の心の叫びであり、その奥にある孤独や不安を映し出していた。しかし、それをどう受け止めればいいのか、圭介には分からなかった。

沈黙の中で、二人は再び歩き始めた。どこか手探りのような歩みではあったが、圭介は彼女の手をそっと握りしめた。真理子もその手を軽く握り返した。その瞬間だけは、二人の間に少しだけ温かさが戻った気がした。

あの空に映る彼女の色は、誰にも分からない。しかし、圭介は彼女と共にその答えを探していくしかないと思った。それがどんなに難しくとも、彼女を一人にはしないと心に誓いながら。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?