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Photo by
inagakijunya
ごめんね、端役くん
風になびくゴミ。
電車に乗るとき、アタシに続いて降りる疲れたサラリーマン。
プールサイドをはしゃぐ高校生の集団。
強面プロデューサーに叱られているAP。
名前も与えられていない彼ら、彼女たち。
猫の大群。おみやげのおばちゃん。4人組の合コン。
AやBで片づけられる彼ら、彼女たち。
僕はあくる日から全員に名前をつけてやることにした。ちゃんとフルネームだ。
僕のシナリオは、主役たちのセリフの言い回しがややこしくて長いので
端役たちに名前を付ければページ数は増大する。
きっと、製本段階で削られるかもしれない。でも、僕は彼ら、彼女たちを見捨てたくない。見逃したくない。
いつか、彼ら、彼女たちが主役の物語だって作るつもりだ。
「きつぃ。目、痛くなってきたわ」
「冷えピタ? 使う?」
背を逸らせる男たち。
僕のシナリオが、僕の台本を印刷した応募用紙が山のように積まれたところに置かれた。
これで10年連続だろう。
そんなことは、シナリオコンテストの審査をする
この若手プロデューサーCとDは知る由もない。
何かしらの作品では、彼らにもきっと名前は与えられないだろう。
「マジで面白んないのって、面白んないよね。なんか勉強なるわ」
「分かる! 最後までめくる気しないもん」
僕の最高傑作は、いとも簡単に
他の駄作と同じように、1~2000近い名前のない紙として葬られた。
ホントごめんね、端役くんたち。
あー。風が吹いて、社長のデスクに飛んでいけ。
(女性・エキストラで可)に捨てられろ。
いいか、それは風になびくゴミだ。