最後の荷物になるのかな
生きていくことは世知辛い。
何も言わずに別れを迎えた彼女から婚約指輪と合鍵が段ボールで届いた。受け取った僕は膝から崩れ落ちた。
宛名は、僕と知っている名前とは全く違うものだった。
僕が付き合っていたあの子は誰だったんだろう。
スピッツが好きで、炊き込みご飯が好きで、お化けより妖怪が苦手で、
キスがちょっぴり下手で、僕のことを「好き」だったあの子。
3年後、あっという間に経った。
僕は相変わらずだった。
あの子を見つけた。武道館でギターをかき鳴らしてファンを魅了していた。ラストにドラマ主題歌になってヒットした失恋バラードを熱唱していた。
間違いなく僕のことではないその赤裸々な歌詞にファンは泣いている。
汗で濡れて前髪が張り付いたおでこは、僕の知るあの子だった――。