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カラオケのマイク、ハウったら隠れてキスをしよう。誰にも邪魔されないように
深夜のカラオケバイトは、世にある深夜バイトの中で一番忙しくて辛くて楽しい。
五反田駅にある、一応チェーン形態のカラオケ屋で、大学入学直後からバイトをしている。
気がつくとはや2年が経とうとしているではないか。大学生活はつまらないまま、半分が過ぎようとしていた。みな、就活の準備を始めている。
話をカラオケ屋に戻そう。店内は広くないが、終電を超えると大学生やサラリーマン、年齢差のエグいカップル、地雷系女子などが集い、ほぼほぼ満室になる。
深夜のシフトは決まって、32歳のミチルさんだ。若くも老けても見えない見た目で、エロそうだけど色気は感じない。
だからめちゃくちゃフラットな気持ちで働けるし、笑いの感覚は似ているし、文句は何ひとつない。
ミチルさんはその昔、別の仕事をしていたと言うが、それもさして興味がない。くるぶしにあるタトゥを消した跡についても触れたことがない。
ファミレスや牛丼屋で隣の客の会話に聞き耳を立てる俺がこれだけ興味ないのだから、ミチルさんは人に干渉させない天才なのだと思う。
二人の楽しみは数少ないヒマな時間の監視カメラチェックだ。
キスしているバカなヤツらを見て、ほくそ笑みながら、余ったポテトフライをかじりつくのが最高の休憩で癒しなのだ。
この日もレッドブルウォッカをさんざん頼んだ大学生カップルがぺちょぺちょとキスをし始めた。
音までは聞こえないから俺の想像の擬音だ。
でも、今日の二人はぎこちなすぎて見ているこちらが恥ずかしいぐらいだった。
初めての口付けなのだろうか。
ミチルさんもいつもとは違う顔をしていた。それがすごく色っぽくて、俺はポテトで塩まみれの唇をミチルさんのそれにこすりつけてこじ開けた。
深夜のカラオケバイトは忙しい。すぐにオーダーが入り、元の時間が始まる。
でも俺の心臓はドキドキバクバクで、ハウリングをおこしていた。