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パチンカス経理女子・佐和子さんは定時上がり ~17時から23時まで
私はルーティンを絶対崩したくないし、崩されたくない。
17時5分に勤怠管理ボタンを押して、最寄り駅の店に向かう。
ギンギラギンに輝く店内。
今日も今日とて、私は「中森明菜・歌姫伝説~BLACK DIVA 極~」を打つ。
「佐和子さん、今日どうですか?」
「ごめんなさい。」
たまに、同じ経理部の後輩ちゃんが、近くの串カツ屋のハッピーアワーに誘ってくれるが、一度も行ったことがない。
お酒が好きじゃないし、串カツはもはや体が受け付けないし、何よりパチンコを打ちたくてしょうがないからだ。
38年間、男性と交際することなく実家暮らしを続けてきた。
経理の仕事もかれこれ20年近く続けており、それなりのお給料をもらっている。
家に10万はお金を入れているが、旅行も行かないし、ブランド品もたいして興味はない。
だけど、私はパチンカスなワケで、貯金はほぼない――。
しかし、ポリシーとして借金はしないと決めている。
確かにマイナス収支を叩き出しそうな月もあるが、そんなときは最終週にお祓いにいく。
負けそうだと思う気持ちが良くないのだ。
パチンコ店の新台情報も鵜呑みにはしない。
気合いで乗り切る。
もちろん、経理担当だからと言って、着服などはしたことがない。
確かに大量の現金を見ることは多い。この札を押し込んで、玉を溶かしたい! 脳汁出しまくりたい!
そんな邪念が脳内を巡ったときもあるが、そんなときはちゃんと有休を消化して朝からパチンコに並ぶことでバランスを取っている。
去年、ブランド品を買い込んで横領した後輩の経理部員がいた。
経理は、お金に屈してはいけない。
たとえ、ブランド厨でも、パチンカスでも。
それが私のポリシーだ。
会社の同僚も、営業部の男性もつまらない人が多い。誰もパチンコの話をしないのだ。だから私は社内でほとんど会話をしたことがない。
メガネをかけた寡黙な女子だと勘違いされている。
母親も気づいていない。23時すぎに帰ってくる私を心配しながら、夕食を作り置きして寝ている。
ごめんね、お母さん。
でも――。
高津店の新台が出た日。
営業部の丸川君とパチンコ屋の自販機前で会ってしまった。
爽やかな真ん中分けが似合う丸川君。
あんぐりと口を開けて私を見ている。
これが私の人生を狂わせる日になるとは……。