見出し画像

夏は好きだけど、苦手です

あらすじ
夏に出会った、ちょっと根暗な二人の物語。

「夏は好きだけど、苦手です」

いきなり初対面でそう言われて、おんなじだ、と思った。マッチングアプリで何気なく『いいね!』を押した彼とこんなにも会話が合うとは思わなかった。
彼は髭が少し濃くて白髪もチラついていて決して清潔感があるとは言えない。
目線も下向きで明るい雰囲気はないし、おちょぼ口で声も小さい。

ちょっと前まで、ポジティブに生きると決めていた私の表層をめくり返すような存在。
妙にふわふわしているこの感情。この人といると幸せには暮らせないと思ってしまう。

「気温が高くなると夏が来たなぁってホッとするんですけど、暑いと最悪だとも思う。二重人格かなって思うときもあります」

おんなじですよ、と私は返したが彼に寄り添いすぎるとよくない気がして会話を一度終わらせた。

彼は美菜子のストーカーをしていた。

美菜子に相談を受けたときに何度も見た顔。
警察に相談しても一向に連絡が取れなくて泣き寝入りするしかなかった。
だから、私たちの共通の悪人としてずっと恨んでいた人。

何気なく「いいね!」を押したなんてウソ。
こいつと会って何か復讐をするためにこの場所に来た。それなのに、こんなにもシンパシーが合いそうだとは思わなかった。

夏の暑さでかく汗とは違う、ドロドロとした汗が首の後ろから流れ始めた。

「春と秋が好きな人、多いけど。なんか信じられなくて……」
「……あ。それ、考えたことあります」

彼は笑う。その顔は素敵とは言いがたい。

照り返すアスファルトに目を細めながら、私はカフェから居酒屋へと移動していた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?