墓場の散歩が怖くなかった月夜の話
ゼミ合宿で肝試しをすることになっていた。約束事は酒を飲まないこと、騒がないこと、そして男女でペアになること。
俺はこのイベントが楽しみでしょうがなかった。
爽子さんとペアになった。先輩だけど童顔で、そのくせナイスボディの持ち主でゼミの人気者だ。
俺のくじ運も捨てたもんじゃない。先月のバイト代で風俗行かなくてよかった。
順番が来る。
墓場の前で「怖いの苦手だから少しお酒飲んできちゃった」と笑う爽子さん。
火照った顔が俺の持つ懐中電灯に照らされる。
何かが起こりそうな予感に体が疼く。薄手のピチピチタンクトップ。夏は憎いね、ホント。
胸元のロゴが膨らんで伸びている。外から圧が働いているのだ。その圧は硬さではなく柔らかい弾力の圧に違いない。
墓場を少し歩き始め、他のゼミ生の気配がなくなってきたころ、爽子さんが手を差し出してきた。
ほら?
え?
いきなり、俺の肝が試される時がきた。
手、繋いでいいということか。夢だろ。
爽子さんの方に俺の汗ばんだ手を伸ばすと、スルリと生温かい感触に包まれた。頭がクラクラする。
目を見れず、不覚にも胸元に目がいく。揺れてますがな、下りの坂道のせいで。
て、てゆーか下着を付けてないんですけど。無防備すぎるよ。
坂の下に着いた。俺の周りにえげつないくらいの霊が取り囲んでいた。
それは両手に収まらない数。幽霊なのか妖怪なのかも分からない。霊感のない俺が見えるくらいだからよっぽどの邪気なのだろう。
体の身動きが取れなくなる。
え……。
体中の熱気が冷めていく。
爽子さん? 爽子さん?
懐中電灯の灯りが消える。
爽子さんはもう横にはいなくて、爽子さんの手の温もりだけを感じる。俺は走って墓場を駆け抜けていた。
この村は昔、禁酒令が出ていたと後から聞いた。
合宿が終わってから誰も爽子さんの話をしなくなっていた。
だけど、俺はそのときの記憶を布団の上で、今でも思い出しては興奮が冷めやらないでいる。