好きになったのは風船ガムを食べる人
もういい年なんだから。母親と叔母が口々に打ってくるマシンガンのような言葉。アタシの致命傷にはならないけど、ジワジワと効いている。
つらぁ~、脇腹イタタ。
たまに帰ればこれなんだ。30代の先輩からはよく聞いていただけど、ホントにこんなこと言い出すとは。還暦近くなると、アレを言わないと気が済まなくなるのだろうか。ま、知ったこっちゃない。
足元がふらつくダメージを背負っても、東京に戻れば元通り。こっちには独身の仲間も多いし、マシンガンよりすごい威力のハラスメント受けてるし。
要は問題ないってこと。
ウチの近くに駄菓子屋がある。昭和から続いているらしく、週末になるとサブカルカップルでごった返しているけれど、平日は近くの小学生数名とアタシぐらいしか客はいない。なんで潰れないんだろ。土地持ちか。
いつも通り、りんご飴と味の薄いチューペットを頼む。110円をざるに入れると、店主のおばあちゃんは「毎度どうも」と屈託のない笑顔を浮かべる。
あんな純粋無垢な顔ができるお年寄りは心が濁っているか、無に違いない。ごめん、おばあちゃん。統計ね。
外でチューペットをすすっていると、隣にクタクタのスーツを着た営業マンらしき若者が風船ガムを頬張り、ぷくりと膨らませた。
思わず溢れる笑み。やば。と思ったが、リーマンも照れくさそうに見ている。営業の途中だろうか。土曜も働くなんてブラックだなぁ。
すると彼はアタシに風船ガムをくれた。というか、手に乗せてきた。
「これ、よかったら」
あ。こいつ、中学のとき下の学年にいたサッカー部のエースだったやつ。
確か名前は……。
考えている間に居なくなっていた。
川島くんだ。アタシは頬についたガムを引っ剥がしながら、彼の名前を思い出した。
あいつ見た目は若いけど、貫禄ねぇな。
でも、なぜか昔のことを思い出していた。