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Photo by
mako_makkonen
縦社会の横恋慕
「ファンのみんなぁ。最高でーす!」
テレビで流れる3分程度のスポーツニュースに映る夫の雄姿を、ベッドにいる女性が見つめている。
俺の不倫相手、元グラドル、現ママタレだ。
プロ通算2000本安打を打ったベテラン選手・望月慎之助の妻を寝取った夜。
俺は支配下登録から育成枠に成り下がった。
背番号は124になった。「ちょうど実家の市外局番と同じだな」と同級生がいじりを込めたLINEをくれた。
もう、今年が潮時だろう……。
不倫をした翌日、俺は3軍で2つのエラーをやらかして、監督に激怒された。
「そんなんじゃ、一生かかっても望月のようにはなれないぞ!」
望月のようにはなれないけど、望月の嫁を弄んでいるなんて言えやしない。
「はい!」
「返事だけはいいな。練習しろ、バカ」
秋。
案の上、戦力外通告を受けた俺はトライアウトを受けた。
二日酔いで頭がぐるんぐるんするなか、奇跡的に俺のバットは真っ芯を食って白球はスタンドに飛び込んだ。
「悔いはないです、最高でーす」
ドキュメンタリーのカメラマンにそう答えたが、当然放送はされなかった。
その日の夜、ご褒美に望月の嫁がとんでもないプレーをしてくれた。
明日からは、野球を忘れてカタギとして暮らす。
最高の最後の夜は夜明けまで続いた。
翌年の春。
タクシー運転手になった俺は、望月が女優に性被害を与えて球界を去ったラジオニュースを聞いた。
不思議な気持ちになり、ラジオを切った。