
ここは西新宿サボリパーク
再開発が驚く早さで進む、いつだって騒々しい街・東京都は新宿区西新宿の西の西。
その周辺にあり雑居ビルの地下にひっそりと続く階段。基本的には誰も気づかない暗闇。
その中にわたしが働く場所がある。
通称「サボリパーク」。
ここには、仕事や家事、人生をサボる人たちが集まり、各々の時間を過ごす。
注文があれば、カレーやオムライス、豚汁など簡易的な料理を提供するのが仕事だが、注文する人はほぼいない。
内装も簡素だ。
コンクリート剥き出しの壁、ちょっとしたカウンターと靴を脱いで上がるソファルームとシャワー室が3つ。10人も来ればパンパンだ。
ここでは仕事をしたり、スマホやパソコンをいじることは禁止とされている。
それ以外は自由。
おっと。特筆すべき点は一つ。
各々のタイムカードで出勤を切れば、元の仕事場に戻ったとき自分の仕事がちゃんと遂行されているのだ。
システムや理屈は分からない。死んだオーナーが最期まで教えてくれなかった。
つまり、ここに来ればサボりがサボりでなくなる。
かといって仕事がうまくいくかは別の話。3時間寝ていても3件のアポイントを取っていたことになるが、商談成立になるかは分からない。
だからここにいる人たちはクビにもならなければ出世もしない。
かくいう私もスマホの販売員をしているが、それをサボってここにきている。
帰ると今日はスマホの機種変とともに、老人に10台もWi-Fiルーターの契約をさせていた。
そう。私は詐欺師だ。おばあちゃんは家でパソコンをしない。でも私がしゃべれば素直に契約してしまう。
だから、逃げ出したのに…。サボっても仕事をしてしまっているのも考えものだ。
伊月さんがやってきた。
この人は製薬メーカーの専務だ。日本を代表する企業だが、不祥事で不買運動が起こり、メーカーは存続の危機にある。そのストレスからか、ここに通い始めた。
年上好きの私は伊月さんが好きだった。
でも。まさかあんなことになろうとは……。